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第五章 雲蒸竜変

第五章 雲蒸竜変


【神聖紀1223年5月24日アーカス王国テード】
 エリース湖の最南東に、“テード”はある。ウル山脈を背にした港町で、ウル山脈の白い岩、長い砂浜、蒼い湖面、そして、ワルスゴルム大森林の深緑が、美しいコントラストを見せている。かつては、多眼人やエルフとの交易で栄えていたが、多眼人滅亡後は廃れている。今も街は城壁で囲まれて、中心部には神殿や教会、港には塔、そして、背後の丘には城砦などが残り、街全体に重厚な雰囲気があった。現在、この小さな街には、600人ほどが定住していた。
 このテードに、突如としてサリスの白亜聖騎士が押し寄せた。
 辺境のテードには保安部隊しかなく、聖騎士達は瞬く間に街を制圧する。
「ここまでは誰にでもできる。できて当然だ」
 オーギュストが街のメインストリートを歩きながら、やや強い口調で言う。道は急な坂で所々に階段もあり、登り切った所に武骨な城砦があった。
「ああ、これからが難しい。しかし、湖から攻めるには、厄介な坂だな」
 ナルセスが額の汗を拭きながら、荒く息を吐き出す。
「多眼人やエルフと揉めた時の事を考えての事だろう。だが、逆に山側から攻めれば脆い。これは地元の武人なら、知っていて当然だ」
 オーギュストが階段の上で振り返って、肩で息をしているナルセスとマックスを待つ。
「と言う事は、ここでは戦えないな」
 オーギュストの横で、リューフが言った。
「そう言う事になるな」
「じゃ……ハァハァ……どうする?」
 ようやく登り切って、マックスが呟く。
「ぜぇぜぇ……攻めるしかない」
「正確には、守り易い場所を奪うしかない、だ」
 ナルセスの言葉に、オーギュストは訂正を加えた。
「おい、もうお客さんだ」
 リューフが西を指差す。土煙の中に騎兵の姿が垣間見えている。


【アーカス王国東部ナント】
 テードの西500キロほどに、ナントと言う街がある。
 ナントはアーカス王国東部の港湾都市で、アーカス第2の都市である。背後のウル山中には、ミーケ、ケーセンなどの良質で豊富な鉱山があり、また、ヤルクには古代生物の発掘場もある。さらに、ワンには塩湖があり、そこで大量の塩が生産されている。海から遠い内陸の世界であるエリーシアにおいて、塩は貴重な資源である。これらの搬出港として、ナントは繁栄していた。
 この要衝の地を守るために、アーカス王国は鎮東府を置いている。その最高責任者が、アルフォンソ・カルロス・デ・オルテガ公爵(鎮東将軍)である。アルフォンソは先王のカルロス1世の実弟で、末弟フェリペ(鎮西将軍)とともに兄王の覇業に尽力した歴戦の勇者である。また、兄王の死後は、2代王カルロス2世を助けて、王国の安定化に尽力してきた。特に、ブルサの敗戦で長年のパートナーである弟フェリペが戦死してからは、首都サンクトアークに詰めて、政治の全てを担っている。しかし、六十を越えて、肉体的、精神的な衰えを隠しようがなかった。
 それを敏感に感じてか、ナントでは不穏な動きが目立ち始めている。
 アルフォンソの配下で、ナントの留守を預かるパブロ・フランコ鎮東府司令官代理は、地元の有力者を集めて、パーティーを連日のように催していた。
 この夜も、ナントの“コバルト宮殿”には、ミーケ侯レオン・ホセ・デ・ガルシアやシュルタン伯リカルド・フアン・デ・エルナンデスという大物が参加している。他にも、多くの諸侯や軍人などが参加していたが、彼らはメイン会場の隅で、または別室で、会合や議論を繰り返していた。
「カトリーヌ、いつもながら見事ですな」
「あら、男爵様。踊りませんの?」
「いやいや、それより旦那様は何処ですかな?」
「あちらに」
 メイン会場では一曲目が終わった。
 その時、踊り終えた華やかな貴婦人に、気障な口髭をはやした中年の男が、親しげに話し掛けていた。そして、丁重に礼をしてから、貴婦人が指差した方へと歩き出す。
「よ、大佐。今日は女より酒か? あんたらしくもない。嫁さんを寝取られるぞ」
「男爵か……」
 ロベルト・デ・スピノザ男爵は、踊りもせず、談笑もせず、ただ独り酒を飲むペドロ・サンチェス大佐に話し掛けた。
「不機嫌そうではないか?」
「そんな事はない」
 言って、一気にグラスを空にすると、サンチェス大佐は会場を見渡す。そして、酒で濡れた口を開いた。
「この盛況を見ろよ。フランコの奴、まるで天下を取ったような鼻息だ」
「それに近かろう。このままで行けば、遠からずナントに国を打ち立てそうな情勢だ」
「……全く歯痒い」
「おいおい」
 愚痴るサンチェス大佐に、スピノザ男爵は関わりを避けるように少し離れ、豪華で多彩な料理に手を伸ばす。
「奴と俺は同期だ。それなのにこの差。俺は未だにド辺境のパトロールだ」
「詰るところ、やっかみか?」
「言っておくが、俺だけじゃないぞ。戦場から帰ってみれば、あんな奴が幅を利かせていたんだ。誰でも腹が立つ」
「お前は前線に出ていないだろう」
「……けち臭い事言うな!」
「では、カルロス王に従うしかないな」
「冗談ではない。あんな腑抜けにこれ以上膝が折れるか」
 酔った親友を、スピノザ男爵は笑う。
 ナントよりもさらに東方に、フェニックスという街がある。かつてウル山脈から流れ出した溶岩が、夜の闇の中で、あたかも伝説のフェニックスが舞い降りたかのように見えた事から、この名がつけられた。そして、冷めて固まった溶岩は、ウル山脈からエリース湖に突き出た尾根となった。この標高200程の小高い丘をフェニックス・ヒルと呼ぶ。このフェニックス・ヒルのために、街道は湖と丘とで非常に狭くなり、交通の難所となった。
 この地を治めるのが、ロベルト・デ・スピノザ男爵である。スピノザ男爵家はセレーネ半島のエスピノサを領する名門スピノザ伯爵家の分家になる。ロベルトは伯爵家の次男で、男爵家には成人すると同時に養子として入っている。以来約20年、田舎暮らしを続けている。若い頃は、やや眉毛は太いが端整な部類の顔立ちをしていたが、最近では太り、頭髪も薄くなってきた。容姿の衰えと比例して望郷の念は募り、それを紛らわすために、彼はカードやビリヤードといったゲーム遊びに夢中になった。
 ペドロ・サンチェス大佐は、スピノザ男爵の長年の遊び仲間だった。アーカス極東方面パトロール騎兵連隊の隊長を務めているが、華やかな武勲とは縁遠い。しかし、女性とのロマンスは若い頃から盛んで、甘いマスクと滑らかなトークを武器に、十分過ぎる戦果を上げている。今も18歳も年下の妻(カトリーヌ)を娶っていた。一般的に、小人物というのがもっぱらの評判で、野心など持ち合わせていないように思われている。
「あれは?」
「うむ?」
 若く長身のボーイが酒を運んでくると、その顔を見上げて、スピノザ男爵の目が爛々と輝いている。その時、サンチェス大佐が会場の奥に消えていく一団を顎で指した。
「なんだ、あの白い軍服は? 腕章はアルティガルド軍の物のようだが……」
「あれが噂のアルティガルド王国軍から来た戦術顧問だろう。確か“白い巨人(ヴァイスリーゼ)”と言った筈」
 スピノザ男爵は歩き去るボーイを名残惜しそうに見詰めながら、カクテルグラスを口に運ぶと、甘い酒を一気に飲み干す。
「アルティガルドから武器や人材の援助を受けるとは聞いていたが……あんなに若いとはな……」
「胸に、“AⅣ(アウスゲツァイヒネト・フィーア)”の勲章があったろう」
「AⅣと言えば、あれだろ。素人でも分かるお利口さんの証だ」
「そう。そのAⅣ出身者の超エリートだそうな」
「ふーぬ。あんな若造に命令されるのか。嫌な時代になったものだ」
 顔を歪ませると、サンチェス大佐は両手に持ったグラスを連続して空にする。AⅣとは、アルティガルド王が直々に与える栄誉賞のことで、毎年王立大学の卒業生から4人選ばれる。
「AⅣと言えば、あんたの姪も確か……」
「ああ、俺とは、顔もおつむのできも、えらい違いらしい」

「如何した?」
 フランコが別室でアルティガルドの参謀達と談笑をしていると、部下がそっと耳打ちをする。
「分かった」
 フランコは一度頷き、失礼する、と言い残して部屋を出た。
「それは本当か?」
「はい」
 廊下に出ると、左右を腹心に見張らせる。そして、報告に来た部下に迫力のある眼を剥いて迫った。
「テードの担当は?」
「サンチェス大佐です」
「あいつか……」
 厚い唇を歪めると、長く息を吐き出す。
「ドミンゴ。お前が行け」
「はっ」
 呼ばれて、ドミンゴ准将が頭を下げる。
「さて、ワシにも運が向いてきたらしい。サリスの皇女を娶るも良し、アルティガルドに献上するも良し。ふははは」
 フランコは二重顎を擦り、弛んだ腹を揺すって笑う。


【5月25日テード】
 清々しい光の中、湖から涼しい風が吹く。黄金の髪が靡き、キラキラと輝いていた。群衆を見渡す壇上に、エルフ族の革鎧を身に付けている女性がいた。革鎧は、藍色の肩当てと胸当て、そして、3枚の垂れを組み合わせたもので、淵は金の飾りで補強され、見た目も美しい。インナーは清楚な薄いブルーで、腰には同色のスカーフを巻いて膝下まで覆い、その下から黒っぽいブーツが見えている。
 全市民を見下ろす壇上に、ローズマリーが立つ。
「今世界を未曾有の混乱が襲っています。この脅威を打ち勝った時、世界に恒久的な平和を取り戻す事ができるでしょう。私(わたくし)並びに、ここに従う者達は、その尖兵に過ぎません。皆さんの協力こそが、世界に正義を回復させるのです。確かに敵は強大です。幾多の苦労も覚悟しなければなりません。ですが、我々には正義があり、正義は必ず勝つのです。冬の後には必ず春が訪れるのです」
 ローズマリーの美しい声が、テードの街に響き渡った。
 そして、一瞬の静寂の後、大歓声がテードを包み込んでいく。民衆は熱狂していた。美しい皇女を助けて正義のために戦う英雄、そこに自分を重ねて、熱烈にローズマリーの名を叫ぶ。この錯覚に満ちた恋心は、ナイト・シンドロームとなって男達の胸を焦がしていく。
 この時、ローズマリーがエルフの革鎧を着ていたのは、偶々有ったからと言うのが真相である。戦う姿勢を示すために鎧が必要だったが、ローズマリーは持っておらず、ティルローズのではサイズが合わなかった。場所柄、人間用の物は数が少なく、センスのある物は皆無である。しかし、これも場所柄で、エルフや多眼人の物品は比較的豊富にあった。その中から選んだのだが、華奢なローズマリーにぴったりと似合っていた。
 演説に加えてエルフの革鎧の効果もあってか、テードの成人男性のほとんどが、こぞって義勇兵となった。それらから、弓の得意な狩人などを選りすぐって、約50人をディアン義勇軍の下に組み込む。これらを、マックスがウェーデリア軍隊方式で訓練した。一方、リューフの元には、リューフを慕って若い聖騎士約30人ほどが集まっていた。
「これで何とか戦えそうだな」
 ナルセスが城砦の高台から、城内で剣の稽古をするリューフ、そして、城外で訓練するマックスを交互に見て、にんまりとしていた。
 その頃、テードの市庁舎では軍議が開かれていた。市長など街の役人は、すでにテードを逃げ出し、市庁舎は裳抜けの殻[もぬけのから]になっていた。そこを接収して、サリス軍の総本部としていた。
「パトロール小隊はペルレス殿が難なく追い返したが、今度はそうはいかんだろう。次は正規軍が攻めて来る」
 オーギュストが発言した。
 軍議の席にオーギュストが現れた時に、ティルローズは思わず立ち上がり、指を指して怒鳴っていた。だが、ローズマリーは一切構わず、宮廷魔導師にすると告げる。これにはオーギュストが笑って辞退した。結局ローズマリーの私的な秘書官という事で落ち着く。
――最近異常に馴れ馴れしい……毎夜演奏を聞いているようだし……
 ローズマリーは些細な事でも、オーギュストの意見を聞いた。そして、嬉しそうに頷く。その表情はぱっと明るく冴え、何処か艶を感じさせている。そんな二人を見ていると、ティルローズの苛立ちはますます増していく。
「だからこそ城砦の修復を早く終わらせるべきだ」
 ペルレスが冷静に言った。それは大人の余裕を示すように、堂々としたものだった。
「それじゃ全滅するぞ」
「理由を言ってみろ」
 即座にティルローズが噛みつく。
 オーギュストはティルローズの瞳を覗き込むと、やや丁重過ぎる口調で語り始める。
「城砦の中央には二つの貯水槽があるが、どちらも空です。食糧備蓄もありません。武器もありません。城壁は崩れています。さらに城砦には南の山側からの備えが全くありません」
「臆したか! 不利な戦いだと言う事は最初から分かっていた筈だ。だから私は嫌だったのだ。こんな奴を――」
「だからここを奪う」
 ティルローズを無視するように、オーギュストは地図を広げた。
「ポーゼンだ」
 テードとフェニックス・ヒルのほぼ中間にある街で、パトロール部隊の基地がある。

 夕方になり、軍議が終わった。結局、オーギュストの意見は黙殺され、テードの守りを固める事、各地に書状を送り協力を呼びかける事などが決まった。
 夕暮れのオレンジ色の光が差し込む中で、ローズマリーとオーギュストは、市長室へと入っていく。
「ここにいた市長は、弓の趣味があったらしい」
 先に入ったオーギュストが、壁にずらりと飾られた弓に興味を示す。
「珍しいものがあって?」
「いや、市販されているものばかりだ。ベレッタ、ワルサー、ルガー、ウェンチェスター、ドラグノフ……何でもあるな」
「そう…詳しいのね……」
 呟いて、ローズマリーはそっと後ろ手で鍵をかけた。
 オーギュストは部屋の中央に置かれたショーケースを、「こっちはマシかな」と腰を屈めて覗き込む。
「この“アポロンの弓”と“アルテミスの弓”はレプリカだな。エルフィンボウは本物だが壊れているし。うむ、これは!」
 オーギュストの眼が、一本の古めかしい弓で止まった。
「気に入ったのあった?」
 ローズマリーはオーギュストの背中に手を添えて、顎を左肩の上に乗せる。
「組み方を間違えているが、多眼人の“バルキリーの弓”だ。面白い」
 オーギュストが満足げに頷く。
「よかったわね」
 耳元で、ローズマリーは囁く。
 オーギュストは左腕をローズマリーの腰に回して、右手でローズマリーの左耳をなぞる。
「ごめんなさい。前はあんな娘(こ)じゃなかったのに……」
「気にしちゃいない。それに最初から意見が通るとは、思っちゃいなかったし」
「でも」
 オーギュストがローズマリーの唇に人差し指を当てて、微笑む。
「もういいから」
 それから、首を回して、唇を重ねていく。それに合わせるように、ローズマリーは首を傾げて、瞳を閉じ、唇を半開きにした。
「駄目よ……誰か来るわ…」
 一度目の軽い啄ばみが終えると、ローズマリーが頬を朱に染めて甘く囁く。
「そいつは大変だ――」
 その華奢な身体を、オーギュストが抱き寄せた。
「急がないと、皇女様の正体が淫乱だとばれてしまう」
「あぁ……ひどい。あなたが言ったから、私(わたくし)……下は……はいていないのよ」
 言って、ローズマリーは自分で腰に巻いたスカーフを捲り開く。
 そこには、髪と同じ色の恥毛を淡く繁らせ、熱く蒸れた秘唇から太股へと蜜を滴らせていた。
「ふぁぁぁ……んっ!」
 オーギュストの指が、秘唇をなぞり、蜜を掬い上げる。
「ココがこんなに潤うなんて、マリーは変態女なんだな」
 ローズマリーはカァッと顔中を真っ赤に染めた。そして、脳裏に今日一日の自分の姿を思い描く。

――ドキドキしていた……
薄いスカーフで……
もしバレたら……
熱い……
身体の奥がどんどん燃えていくよう……
 ローズマリーは薄いスカーフが風に揺れる度に、捲れるのでは、と動揺した。そして、群衆に紛れるオーギュストと目が合う。
――こんな事で、彼は悦んでくれているの……?
 この世界で、彼と私だけの秘密。淑やかで慎み深い筈の自分、そうあるべき自分が、本当はこんなにいやらしい女だと言う事は。
――そう……彼だけは知っている……
 心の底から熱い衝動が蠢き、下半身がどうしようも疼く。
――早く抱いて……!
 そう思った瞬間、股間から淫らな涎が、垂れ落ちていくのが分かった。

「ねえ、身体の火照りが止まらないの。鎮めて……」
 ローズマリーはショーケースに両手を乗せ、尻を突き出す。
「な…なかに……私(わたくし)の中に……ほしい…の…」
 オーギュストは美しい雪肌を見詰めながら微笑んだ。

【6月初旬、テード郊外】
 ナントを発したドミンゴ准将の軍勢4,000と、サンチェス大佐のパトロール騎兵連隊2,000がテードに迫っていた。
「サンチェス、お前はここで見ていろ」
「はい」
「フランコ将軍直属のナント兵の力を見せてやる」
「へいへい」
 自信に満ちたドミンゴの言葉に、サンチェスはウンザリした顔で頷く。その声を、ドミンゴは鼻で笑う。
「ドミンゴ騎兵旅団突撃せよ!」
 そして、威勢良く攻撃を命じた。

「敵か!?」
「味方な訳ないでしょ」
 ペルレスが城門に駆け登ってくる。そこにはオーギュストとマックスが並んで座り、緊張感もなく将棋の駒を並べていた。そして、ペルレスは二人に慌てた声で話しかけるが、オーギュストの返事はつれないものだった。
「敵だ……アーカス騎兵が五千も……」
 生唾を一つ飲み込んで、ペルレスは土煙のする方角を見遣る。
「如何します?」
 頬杖をついて、オーギュストがペルレスを見上げる。
「何が……?」
「敵は本気ですよ。勝てますか?」
「……」
 当然だと言い返したい、だがどうしても言葉が喉に詰る。
「手伝いましょうか?」
「なっ!」
 眼を剥いて、オーギュストを見返す。
「俺はいいんですけどね。聖騎士の勇敢な戦いを、ここで見物するのも一興だし」
 頭に一気に血が駆け昇っていく。ペルレスは素早く剣を抜こうとする。
 だが、それよりも速く、オーギュストはペルレスの右腕を、左手で上から押さえ込み、剣を抜かせない。そして、右手で短剣を抜くとペルレスの喉に当てる。
「こ、殺せ……」
 ペルレスが呻[うめ]くと、オーギュストは短剣を持ち替えて、柄の紋章を示す。
「ローズマリーの短剣だ。主君の剣で死ぬか? この上ない不名誉だよな。俺に逆らう事はローズマリーに逆らう事だ」
 ペルレスは立派な口膝を震わせ、腕の力を抜いていく。
 オーギュストはペルレスの腕を離して、大胆に背中を向ける。そして、城外の敵兵を見遣りながらしゃべりだした。
「でも、あんたも勝手な男だよね。皇女様達を引き摺り回した挙げ句に、こんな所で見捨てるんだから」
「……見捨てるなど!」
「そう言う事でしょ。ここであんたが死ぬと言うことは」
「……」
「結局あんた、死に場所を探していただけなんだろ?」
「……ふ、ふざけるな……」
 聖騎士の誇りを語るべき声が震えていた。そして、乱れた心のまま、改めて剣を抜こうと決意する。だが、次の瞬間、脳裏に、喉を短剣で貫かれた自分の映像が焼き付く。
――この男強い……強過ぎる!
「で? 俺はどうしたらいいの?」
「……勝てるのか?」
 オーギュストの不遜な問い掛けに、ペルレスはポツリと呟く。
「あんたが俺に従うと誓約するなら」
 この時のオーギュストの声は、ペルレスが聞いた中で、一番低く冷たかった。
「……分かった。女神エリースに誓う」
 見えない手で、頭を押さえ付けられたような気がした。それに逆らう術が、どうしても見つからない。
「……お前に従うと」
 そして、ペルレスは膝を折った。


 サリス軍の主力である聖騎士およそ百騎が出陣する。そして、テードの西1キロほどに布陣するドミンゴ旅団に対して、まるで玉砕のような攻撃を開始した。
 サリス軍はドミンゴ旅団を強襲し、個人技で圧倒する。一瞬ではあるが、楽勝と高を括るドミンゴ旅団の一角を崩す事に成功した。
「えらく小賢しい事をするものらしいな、聖騎士とは」
「左様ですな」
「だが所詮無意味な事だ」
 ドミンゴは予想外の苦戦にいらつく。だが、数の優勢から、勝利への自信は一切揺らいでいない。
 聖騎士の先頭には、ローズマリーの旗を靡かせるオーギュストがいた。オーギュストは剣も槍も持たず、ただ旗だけを持って、聖騎士の一団を右に左に自由自在に操っていた。
 そして、先手を取ったと確信すると、巧みに退いて敵を引きずり出す。
「敵は城門へ逃げるつもりだ、追うぞ、続け!」
 ドミンゴは城門へと逃げようとするサリス軍を追った。
 その時、側面の岩の陰から、弓矢の一斉射撃を受ける。攻撃と言っても、ナルセスの指揮する50人ほどの弓隊からのものだから、大した被害は出ない。だが、ナルセスは斜面の岩陰に巧みに兵を隠して、その総数を悟らせないようにしていた。
「伏兵?」
「罠なのか?」
「大軍がいたのか?」
 この工夫で、ドミンゴ軍に心理的打撃が広がる。そのため、必要以上に、意識が側面へと向かってしまった。
 その瞬間、オーギュストの旗が翻った。
 聖騎士は一塊になって、足の止まったドミンゴ軍の中に突進する。先頭にはリューフがいた。リューフの青竜偃月刀が唸ると、血が舞い、道が開ける。その中をオーギュストは突き進んでいく。
 ドミンゴ旅団を含めたフランコ軍は、独立運動に合わせて編成された、言わば急ごしらえの軍隊である。そのためか、まだまだ役割分担が徹底しておらず、簡単に混乱に陥ってしまった。
 鮮やかに、オーギュストはドミンゴ軍を切り裂いた。一旦外に抜け出ると、そこで方向を転じて、再び斬り込む。
 楔を打ち込まれたドミンゴ旅団では、あちこちで悲鳴が上がった。
「何処だ?」
「敵が見えんぞ!?」
 四千の中の百である。敵の姿を捉える事もできない。ただ仲間の悲鳴だけがこだまし、恐怖心だけを煽った。
 オーギュストは敵集団の中を、掻き回すように走り続ける。
「狼狽[うろた]えるな! 敵は小数ぞ!!」
 ドミンゴは叫ぶ。そして、囲むように命令を出す。
 だが、オーギュストの方がドミンゴの思考より遥かに速く動いていた。包囲される前に一角を砕き、その背後を走って敵騎を削り取る。これを何度も繰り返していくと、いつの間にか螺旋状のような動きになっていた。
「鎮まれ!!」
 再びドミンゴは叫んでいた。しかし、混乱は拡大して、もはや制御する事ができない。ドミンゴの意思を無視して、各騎は各々退き始めていた。
「退くな! 持ち場を離れるな!」
 焦るドミンゴを、オーギュストの眼が捉えた。
「敵将だ。討て!」
 オーギュストの旗がドミンゴを指す。
 焦りは一瞬で恐怖に変わった。
「あんな非常識な奴等と戦っていられるか!」
 ドミンゴは狂ったように、馬を走らせて独り戦場を離脱する。指揮官の単独の敗走に、個々で戦い続けた兵達もついに戦意を失い、崩れるように西へと走った。
「えーい、熱くなり過ぎた!」
 元の陣まで戻って、ドミンゴは、ようやく、兵をまとめる余裕ができた。しかし、突然沸き起こる笑い声で、再び頭に血が昇っていく。
「敵将が武器を捨てて、逃げ出したぞ!」
 聖騎士たちが城門の前で笑っている。その数は百騎ほどしかない。側面の斜面からも、弓隊が下りてくる。それも50人ほどである。それらが腹を抱えて、嘲り笑っている。
「150人程度で! たったそれだけか! 押し潰してやる!!」
 ドミンゴは再び馬の腹を蹴った。一気に野を駆けて、テード城門へと迫る。
 すぐにオーギュストは旗を振り、城門の中へと逃げてしまう。
「逃がすな!!」
 ドミンゴ旅団も城門へ流れ込んでいく。城門では大した抵抗はない。
 さらにオーギュストは、丘の上にある城砦に逃れていた。それをドミンゴが執拗に追う。そして、坂道を駆け登って、城砦の大手門に殺到した。
「なっ!」
 だがその時、ドミンゴの頭上に大木の影が覆い被さる。そして、呆気なく大木に押し潰された。他の騎兵にも同様に、大木や岩などを落とされて次々と押し倒されていく。大木や岩は街の中の坂を、湖へと転がっていく。それに、多くの兵が巻き込まれて、ドミンゴ旅団は大混乱となった。
「敵が乱れた。反撃の時ぞ!!」
「おお!」
 オーギュストが櫓の上から叫ぶ。一斉に矢が放たれ、大手門から聖騎士が打って出る。迷路のように細く入り組んだ路地に退路遮断されて立ち往生する所を、坂道を勢いよく駆け下りる聖騎士が蹴散らしていく。もはやドミンゴ旅団は戦い気力も残っていない。
「勝鬨を上げよ」
「おお!!」
 この戦いで、ドミンゴ旅団は2000人近い死傷者を出した。対して、サリス軍は15人ほどが負傷したのみであった。
 サリス軍の完勝である。

「すごい……」
 サンチェスは敗走する味方を回収しつつ、まだ聖騎士の動きに呆然としていた。
「自由かつ躍動的。なんて意外性に富んだ用兵か。まるで騎兵の理想の動きだ」
 そして、いつの間にか北叟笑{ほくそえ}んでいた。
「こいつは面白くなってきた。俺にも運が回ってきたかも」


 夕刻になって、白い旗を上げた馬がテードの城門に近づいていく。
 その頃、サリス軍ではささやかな祝勝会が行われていた。
「まさに見事!」
 ペルレスが膝を叩いて、オーギュストに酒を注ぐ。
「敵を騎兵で挑発して、城下町に引き込んで戦うとは。あっぱれだ」
「敵に精神的余裕を与えたら、すぐに南の山頂から攻めて来たでしょう。そうしない為にも――」
 答えたのはナルセスである。彼は得々と戦術論を解説していた。
「……」
 一方、オーギュストは黙って、注がれた酒を飲み干す。と、また別の聖騎士がオーギュストの所にきて、酒を注いだ。
 場の中央では、リューフが剣舞を披露していた。すでにマックスは町娘を追いかけて、どこかに消えている。
 その光景をローズマリーは、上座から微笑んで見詰めていた。
「ようやく、馴染んできたようね」
「……」
 その横で、ティルローズは唇を噛む。そして、恨めしそうに、ペルレス達を睨んでいた。その時、当番の兵が慌しく駆け込んで来る。
 これに、ティルローズは訝しげに顔を上げた。
「何事か!」
「申し上げます――」
 ペルレスは立ち上がると、書状を受け取る。
「降伏だと?」
 そして、唸った。
「偽装か……本物か……」
 その場の多くが、自然とオーギュストへ視線を送っていた。
「ひぃ、くぅっ……」
 その時、オーギュストは酔っていた。


【ポーゼン】
 深夜、サンチェスはポーゼンの頑丈な鉄門の前に立った。
「パトロール騎兵連隊のサンチェスだ。門を開けよ」
 サンチェスの横には、リューフが鋭い眼光で立っている。変な仕草を少しでもすれば、そのまま叩き斬ろうという面構えである。
「俺をもっと信用してもらいたいものだな」
「信用などしない。俺は自分の仕事を果たすだけだ」
「そんなんじゃ出世しないぞ」
「あんたもな」
「けっ」
 しばらくして、鉄の門が開いた。その時、闇に潜んでいた聖騎士たちが、一斉に駆け込んでいく。
 ポーゼンは河口にある比較的新しい港街である。ポズナー男爵の居城を、家臣の住居で囲み、南の陸側に城下町を配置している。背後を湖に守られた水城で、防御に優れていた。パトロール部隊の基地もあり、港も小さいながらよく整備されている。人口は5000人ほどで、フェニックス・ヒルの以東では、最大の街である。
 サリス軍はここに侵入すると、兵士達の住居を外から封鎖して閉じ込めた。さらに、ポズナー男爵の居城を襲って、彼を捕らえた。
 朝、住民が起きた時にはアーカス王国の旗はなく、代わりにサリス帝国旗が揺らいでいた。しかし、この事変に住民は歓喜の声を上げた。
「サリス帝国、万歳!」
「ローズマリー様、万歳!!」
「ディアン殿ぉー!!」
 この地にも、テードでローズマリーが行った演説が届いており、憐れなサリスの美姫に対する騎士道的ロマンチシズムが爆発寸前となっていた。
 さらに、それを助ける若き英雄で、自ら義勇兵を率いて戦うナルセス・ディアンの名前も広がっていた。


 港に、大型商船が入ってくる。サイトからの船だった。
「やれやれ、これじゃ観光の街だな」
 一人の男が、小さな荷物ともに船から下りて来た。丸い体型に、丸い顔をした小柄な男で、口の周りには無精髭をはやしている。
 名前はアラン・ド・パスカル。代々続く白亜聖騎士の家系で、剛勇として将来を渇望されていたが、二十の頃父親の家臣を斬り、勘当されている。それ以来、傭兵として各地を転々とし、戦争と聞けば必ず現れると噂されるほど、実戦馴れした戦闘隊長である。
 見た目、粗野な格好をしているが、出自が良いために、髭を剃り、衣服を正すと忽ち紳士に戻る辺りが、妙に愛嬌を誘った。セリアで正式な学問を学んだこともあって、博識で礼節を知り、かつ、専門の築城技術には特に優れていた。
「さて、入隊希望の受付は何処かな」
 ぼそぼそと頭を書きながら、城の方へと歩いて行く。

 その後から、黒髪をショートカットにした、まるで少年のような女性が下りてくる。
「さぁ、ボサボサしない。仕事はいっぱいあるんだから」
 しゃきしゃきした声が、小さな港に響き渡る。
「お嬢様、待って下さい」
「男の子でしょ。もたもたしない」
「……はい」
 荷物を持った少年を、腰に手を当てて叱る。そして、舌を出して笑った。
「まったくぅ、しょうがないなぁ」
 振り返って、テキパキと荷物を受け取ると、またさっさと歩き出す。
 白石屋の娘で、名を弥生といった。この年、二十を迎えるのだが、まだまだお転婆を卒業できずにいる。
「お嬢様おいてかないで下さい……」
「早くしなさい!」
 弥生は長い棒のようなものを抱かかえるように持って、まるで跳ねるように歩いていく。

 オーギュストは港に面した市場を歩いて、届いたばかりの荷物を眺めている。左手には盗んだリンゴがあり、それをかじりながら目を細々と動かしていた。
 天幕と天幕の間から見えるホテルのテラスには、ナルセスがいた。丸い男と握手をしている。市場の道の先では、マックスが野菜売りの少女をナンパしている。その先では、リューフが新しい武器を物色していた。
「休暇中にアイツらの顔は見たくないな」
 オーギュストは脇道を見つけて、市場を抜け出す。そこは正門と港を結ぶ幹線道路で、馬車が引っ切り無しに行き来していた。その道を進んでいくと、ロータリーがあり、そこを左に曲がれば、領主の居城が見えてくる。今は領主のポズナーがローズマリーに明け渡していた。
 城の櫓門で、たくさんの棒をもったワ国人が、衛兵と揉めていた。どうやら、荷物を運ばせようと企んでいるらしい。
「もってやろうか?」
「あら? お兄さんあり……なんだガキか。ほら持て」
 弥生はオーギュストの返事を待たずに、さっさと棒を渡していく。オーギュストは何故こんな事を言ったのか、自分でも不思議だった。おそらく、このポーゼンのリゾート気分が、心を丸くしているのだろう。だが、もうすでに後悔している。
――生意気な!
 オーギュストが腰の横でリンゴを握り潰す。
「何です、これ?」
 見知っている衛兵が、オーギュストに訊く。
「錦の布を捲いているが、この曲線は……弓だな」
「へーえ、ヤルじゃない」
 弥生は笑った。
「ここの皇女様が弓好きらしいから献上するの。ついてらっしゃい」
「そんなの初耳だな。誰が言った」
「魔術通信で注文があったの」
――マックスか? また勝手な事を……
 オーギュストは弓を持って、先に歩き出す。
「ちょっと待ちなさいよ。私の後ろを歩きなさいよ!」

 城内に入ると、応接の間でローズマリーの代理であるティルローズが、謁見を繰り返していた。
「お姉ちゃんは?」
 オーギュストがドアから顔を突っ込んで訊く。
 みるみるティルローズの顔が怒りに震えだす。横にいた女官が、「上です」と小声で囁いた。それに気付いて、物凄い形相でその女官を睨む。
 我関せずと、オーギュストはドアを閉める。そして、階段を軽やかに昇っていく。それに弥生が続いた。
「誰あれ?」
「俺の女」
「つり合ってねぇ~」
「殺すぞテメェ!」
「上等だ! コラァ~」
 二人が睨み合うと、声を聞いてローズマリーの女官長がドアを開けた。そして、「ローズマリー様がお茶を楽しんでいらっしゃいます。お静かに」と窘[たしな]める。
「はいはい。白石屋です。ご注文の品をお持ちしました」
 調子良く頷いて、弥生はすらすらと進んで、部屋に入っていく。
「生意気なぁ!!」
 オーギュストが奥歯を噛み締めながら言った。「あなたほどじゃありません」と、さっきの女官長がすました顔で呟く。
「……」
 オーギュストが眼を見開くと、女官長はさっさと部屋に入る。その後で、弥生が手だけを出して、「荷物持って来い」と呼んだ。
「その性格が命取りになる事を教えてやる!」
 怒りに震えたオーギュストが入室すると、ローズマリーが弓を見ていた。
「どれでも好きな物を選びなさい」
 まるで弟に玩具を与える姉のように言う。
「こいつ、いえ、この方に下賜されるのですか?」
「そうよ。命の恩人なの」
 ローズマリーが微笑む。
「じゃ、ナルセス・ディアン」
 弥生が瞳を輝かせた。
「違いますよ。ディーン殿です」
「知らん」
 あっさり興味を失うと、商品の説明をし始めた。
――今に地獄を見せてやるぞ! 
 心に誓いながら、オーギュストは笑顔を作った。
「“与一の弓”ですね」
「へぇー、詳しいのね」
「弓が好きなのよね」
 ローズマリーが優しく首を傾げて言う。
「鞭とかも好きですよ(ぶっ叩いてやる!!)」
 弥生を見て言った。そして、さらに会心の笑顔を作る。


【ポーゼン郊外、サモラ古城】
「この城でフランコを迎え撃つ」
 オーギュストは軍議の席でそう宣言した。
「しかし、ここよりポーゼンの方が、防御力はある」
 ナルセスが不満を眉の辺りに寄せて、縦皺を刻む。
「篭城は援軍を期待できる時やるものだ。今回それはない。だから、敵に攻めさせる。ここなら敵も侮るだろう。先に言っておくが、城門で戦うのではない。敵を本丸まで引き込む」
 サモラ古城は、この地にまだ妖魔が跋扈[バッコ]していた時代に築かれた城である。ここを拠点に人類は、エリース湖南岸に勢力を拡大していった。だが、妖魔の侵入を防ぐ事を念頭において築かれたために、堀と土塁のみで然程工夫はない。近くにポーゼンが建設された事から、今は倉庫として使われていた。
 城としては、収容人数を増やすために本丸だけが大きくなり過ぎている。それを二の丸が申し訳程度に囲っている。軍隊が攻めれば、容易に本丸まで侵入できるだろう。
「しかし、どうやって勝つ」
「だから、改修すればいい」
 オーギュストは末席に控えるパスカルを見た。
「通常、この城を改修するとなれば、二の丸の外を三の丸で囲む事だろう。だが、それでは大規模な土木工事が必要となる。時間がかかる」
 視線を受けて、パスカルが発言する。
「時間はかからない」
 オーギュストが即答する。
「具体的には、本丸を二つに分ける。次に、本丸の虎口に外に、出丸の築く。名前はそうだなリューフ丸にでもしようか」
 笑うオーギュストに、リューフは目を丸くする。


【6月8日、サモラ城】
 フランコ将軍の軍勢約一万が、サモラ城を囲んだ。
「旧式の城だな」
 サモラ城を見て、フランコは失笑気味に言った。
「ポーゼン城を渡さなかったポズナーの手柄ですな」
「全く」
 胡麻をするような腹心の声に、フランコは短く答える。

「もうすぐ戦いが始まる。配置を最終通達する」
 三層の天守の最上階には、総司令部が置かれている。その一つ下の階に、戦闘指揮官が集められて、軍議が開かれていた。
 ペルレスが気合を入れた後、オーギュストが壇上に昇る。そして、縄張図を指揮棒で指しながら、作戦の説明を始めた。
「二の丸大手門にはパスカル。退くタイミングはシミュレーション通りに。一歩間違うと――」
「分かっている」
 パスカルが答える。すでに気合十分で、武者震いしているようだった。
「本丸城壁にはナルセス。二の丸に入った敵の側面を射よ。それから、パスカルの後退の支援も忘れるなよ」
「ああ」
 腕組みをしていたナルセスが、人差し指を上げて、静かに頷く。
「天守にはペルレス。最終的にここで敵を撃退する」
「心得た!」
 気迫の充実した声で、ペルレスが返答する。
「リューフ、お前は本丸入口前の出丸だ。ここは他の曲輪から完全に独立している。戦いが始まれば間違いなく孤立するだろう。逃げ場はないぞ。いいな」
「愚問だ」
 リューフが不敵に鼻を鳴らす。
「最後に、俺とマックスは本丸隅櫓で将棋を指す。質問は?」
「異議なし!」
 真っ先にマックスが、低く、何処までも響き渡るような声で叫んだ。何処か妙に説得力のある声である。
「無ければこれで終わる」
 オーギュストが書類を整理しながら、視線をペルレスに向ける。
 それを合図に、ペルレスが立ち上がった。
「サリスの存亡この一戦に有り! 諸君らの健闘に期待する。解散!!」
「おお」
 全員が一斉に立ち上がった。そして、互いの健闘を誓い合って、拳をぶつけ合う。
 そんな中、ティルローズはオーギュストに駆け寄った。
「私の名前が抜けている」
「抜けちゃいない。無いんだ」
 オーギュストが素っ気無く答えた。
「私を愚弄するのか?」
 ティルローズはすごい見幕でオーギュストを睨む。
「私はサリスのために、お姉様のために戦いたいのだ」
「お前を前線に出せば、護衛がいる。そんな余裕は今度の戦いにはない」
 瞳を潤ませて熱く語るティルローズに、オーギュストの態度は冷たい。
「……なっ! 私も聖騎士だ!!」
「聖騎士なら、黙って作戦には従え!」
 オーギュストの言葉に、ティルローズが激昂する。それに対して、オーギュストはさらに冷たく言い放った。
「ローズマリー様の護衛も立派な仕事ですぞ」
 慌てて駆け寄って、ペルレスが慰めるように言った。
「ティル、あなたの気持ちは嬉しいわ。でも、ここは任せましょう」
 ローズマリーが穏やかに言う。それにティルローズはきつく唇を噛んだ。


 真剣というより残忍な表情で、フランコ将軍が手を上げた。
「攻撃開始!」
 そして、濁声[だみごえ]とともに、勢いよく振り下ろす。
 二の丸を回る掘は、浅く狭い。軽く矢を射掛けると、城壁からの反撃は鳴りをひそめた。
 フランコは「よし」と短く言って、城門に歩兵を殺到させる。
 大きなハンマーで数回叩くと、城門は簡単に壊れた。そして、歩兵が雪崩れ込んでいく。
「うむ!」
 すぐに、二の丸を制圧したと報告が入った。それにフランコは大きく頷くと、満足げに腹心達と視線を交わし合った。
「直ちに、本丸攻略を始めよ!」
「はっ」
 フランコの命令を受けて、伝騎が駆け出していく。
「予想以上に脆かったな」
「全くですな」
 そして、水筒を腰から外し、水を一気に喉に流し込む。

 フランコ軍の歩兵は、二の丸を走っていた。
 本丸の門は、二の丸の城門から見えない。ぐるりと左に回った先にある。間違って右に向かうと袋小路が待っていた。
 この間、本丸から絶えず矢の攻撃を受続ける訳だから、右に曲がった部隊は手酷い被害を被る事になる。
 さらに正解を選んで左に曲がっても、途中には土塁などで、急に狭くなる場所があり、どうしても速度が鈍る。そこを集中的に狙われて、苦労を重ねる事になる。
 そして、本丸へ入口は見落とし易いように、通路から180度反転しなければ見えないように手を加えられている。もしも見逃して先に進み、角を曲がってしまうと、先ほどの袋小路の上に出て、元の場所には戻れないようになっていた。
 こうして迷子になってしまった部隊が戻って来るために、本丸入口は右往左往する兵で混乱して、収拾が取れなくなっていく。
 そこに、背後の出丸から攻撃が加わる。ここは敵中に孤立しながらも、リューフ以下30人ほどの聖騎士が篭り、必死の戦いを繰り広げていた。
 これら突破し、本丸に入っても、容易に天守への入口が分からない。本丸は、何度も折れて死角を少なくした壁で、二つに分割されている。そして、この門から入った側には、天守への入口はない。一旦、壁の向こう側に進まなければ、天守に入れないのだ。だが、その壁の穴も、分かり難いようにカモフラージュされている。
 こうして、敵を目の前にしても戸惑うばかりで、思うように進む事も後退する事もできず、死傷者ばかりが増えていった。

「ええい、本丸陥落はまだか!」
 一向に戦果の上がらない事に、フランコは次第に苛立ち始めた。そして、自身で指揮しようと、二の丸の城門付近まで進んだ。
「まず、あの出丸を攻略せよ」
 さらに、
「天守への入口を見つけた者を、第一の軍功とする」
 と命令を下した。

「案外強いなぁ……」
 オーギュストが将棋盤を見ながら、思わず唸る。
「そ、そんな事はないよ……偶然だよ」
――ふふふ、俺はワ国から来た名人に、直々指南して貰った事があるんだ。完膚なきまでに叩きのめしてやる!
 マックスは浮かび上がる笑顔を必死に隠して、徐に飛車を動かす。
「銀がただだぜ」
 嬉しさをかみ殺して、飛車で銀を取る。
「じゃ俺は、王手飛車取り、と」
「ちょっと待った!!」
 オーギュストが角を打つと、咄嗟にマックスが叫んだ。
 その時、大手門に仕掛けてあった盗聴用の魔術通信機から、尊大な野太い声がする。
「来た!」
 オーギュストは盤を蹴り上げ、素早く立ち上がると、窓の下へと滑るように潜り込む。
 オーギュストはフランコが城門に近付くのを、本丸の隅櫓から、じっと伺っていた。そして、横に準備してあった“バルキリーの弓”を手に取ると、静かに打ち起こして、ゆっくり引き分けていく。
「エネルギー充填120%、ターゲットスコープオープン」
 左手の弓を握る場所には、うっすらと白く輝く円盤がある。そこに、フランコの姿が映し出された。
「電影クロスゲージ明度……」
「すっげぇ、望遠鏡になってんだ」
「俺の後ろに立つな!」
 オーギュストがマックスを怒鳴る。
「影になるだろうが!!」
「す、すまん」
「ったく……素人が」
 マックスは慌てて立つ場所をずらすが、顔だけは円盤を覗き込んでいる。
「目標……小太りオヤジ……最終セーフティー解除……」
「カウントダウンしようか……? すいません……」
 オーギュストはもう一度マックスを睨むと、仕切り直して、再び円盤を覗き込む。二つの四角が左右に揺らぎながら、次第にフランコの額で一つに重なっていく。そして、完全に合致した時、円盤が薄い赤に染まった。
「アディオス……セニョール」
 光の矢が放たれる。
「ぐはっ!」
 矢はフランコの額を正確に打ち抜いた。
 そして、フランコを失ったフランコ軍は瓦解し、散り散りになって消えていった。

 少し離れた丘の上から望遠鏡を覗く一団がいる。全員がアルティガルド王国軍の白い軍服を着ていた。
「サリス残党軍もやる。これで勢い付くぞ」
「これはもうまぐれではありません。余程よい軍師を見つけたのでしょう」
「ナルセス・ディアンの事か? 違うだろう」
「そうだ。こんな芸当ができる男ではなかった」
「調べる必要があります」
「工作員を忍び込ませよう。今なら簡単」
「そして、その軍師と皇女を離反させる……か」
 白い巨人(ヴァイスリーゼ)のメンバーである。


【ポーゼン】
 夜になって、ティルローズは港に停泊するカルボナーラ号に向かっていた。街では戦勝の宴が、盛大に行われている。時折花火も打ち上げられて、ティルローズの背中を彩った。
 甲板では、リューフが愛用の青竜偃月刀を手入れしていた。そして、ティルローズに気付いて、軽く会釈する。
「……」
 ティルローズはそれに瞳で返して、黙って船内へと入っていく。
 オーギュストは船長室にいた。そこは細長い部屋で、赤い壁紙が幻惑的な雰囲気を醸し出している。船尾側には、横幅一杯まで大きな窓が設けられ、その前に一枚板の重厚な机と黒革の椅子が置かれていた。
「ねえ、何書いているの?」
 薄いブルーのインナーだけのローズマリーが、オーギュストの肩に顎を乗せている。
「連弩と言って、まぁ…たくさん矢を一度に射る事ができる機械だな。白石屋に特注しようと思っている」
「ふーん、ギュスは賢いのね」
 ふざけて頭を撫でる。
「でも、そんな事後にして……もっと楽しい事しましょう?」
 誘うように言ってから、唐突に唇を奪う。
「後で」
 唇を離すと、オーギュストはつれなく言った。
「……そんな真面目な事言うギュスは、こうしてやる」
 ローズマリーは素早く机の下にもぐりこむと、オーギュストの股間を擦る。
「おいおい」
 手早くペニスを取り出すと、美しい双眸を閉じて、躊躇うことなく桜色の唇を開いた。そして、大胆に咥え込むと、舌先で先端をくすぐった。
「しょうがないなぁ」
 オーギュストが表情を緩める。

「失礼する」
 しばらくして、ティルローズがドアを開けた。
 黒革の椅子に座るオーギュストが、驚いた表情の顔を上げる。そして、死角で、もう一人が身体を硬直させた。
「ティル……?」
 オーギュストが怪訝そうに眉を寄せた。
 そして、机の下のローズマリーが、心臓を凍りつかせた。彼女は床に屈んで、かかと上げて、蹲踞のようにしている。裾の長いインナーだけを着て、下は丸い尻を突き出している。そして、清楚な顔立ちを鮮やかに上気させて、夢中で口唇奉仕を捧げていた。だが、妹の突然の出現で、顔は真っ青にすると、思わず口からペニスを離してしまう。
「俺と二人っきりになるのは嫌だったんじゃなかったのか?」
「だから部屋には入らない……」
「ほぉー……」
 オーギュストは一度下を見た。そこでは、ローズマリーが子猫のように震えている。
「どうして……」
「うん?」
 慌てて視線を上げる。
「どうして私に戦闘指揮をさせない。私はサリスのために、お姉様のために戦いたいのだ」
 いつもに増して、ティルローズの顔は強張っている。
「だから説明したろ? 余裕がないと」
「そんな戯言{たわごと}信じるものか……」
「だったら何なんだ? 言ってみろ」
 ティルローズの態度に、あからさまにオーギュストは不機嫌になる。そして、その負の感情は、理不尽にもローズマリーへと向かっていった。
 オーギュストはローズマリーの黄金の髪を掴むと、もう一度、股間に導いていく。
 ローズマリーは抗議の視線を上げ、顔を小刻みに横に振った。
 だが、オーギュストは手荒い手付きを止めない。ローズマリーは目を伏せる事しかできなかった。
「わ、私を排除して、サリスの実権を握るつもりだろ?」
「バカかお前は」
 反射的に、直線的な表現をしてしまう。
「い、言い逃れするな。お前がペルレス達を調略した事ぐらい知っている。そして、ナルセスを押して立てて、独占を画策している事は明白!」
「それは心外だな。ナルセスはサリスに深入りするつもりはないのに」
「なっ!」
 美姉妹は驚き、同時に悲鳴のような声を洩らす。
「当然だろ? ナルセスは聖騎士じゃない。何れは独立して、天下を競う事になるだろう。あいつにはその器量がある」
 ナルセスの事などどうでもいい、と言い掛けて、その言葉を呑み込む。
「……お前の事を話している」
 そして、より穏便な言葉を選ぶ。選んだつもりだったが、声は裏返っていた。
「あれ、言ってなかったけ――」
 もう一度促すように、オーギュストはローズマリーを掴む手に力を入れた。
 それはまさに脅迫だった。もはや観念するしかローズマリーには許されていない。彼女は黄金の髪を後ろに払うと、朱の唇を開きペニスを恐る恐る咥える。
 その感触に、オーギュストはニヤリと笑う。
「俺はローズマリー様の秘書でもある。あの方は俺によくしてくれるなら、俺もそれに応えなければ、ね?」
 そして、ローズマリーの髪を満足そうに優しく撫でた。
 ローズマリーも嬉しそうに、熱を込めて舐め上げる。
「君とは違って、ね?」
 オーギュストは最後に敢えて付け加える。その言葉に、ティルローズは一瞬目眩[めまい]を感じた。
 一方、ローズマリーは危ういスリルを楽しむように、ねっとり温かい唾液でペニスを塗りつぶしていく。
――ああ……ティルがそこにいるのに…気持ちが昂[たかぶ]る…もう止まらない……
 そして、気付かれないか心配しながらも、さらに大胆に悩殺的なピストン運動を繰り返す。自分にこういう一面があることに驚きつつも、一度点いた欲望の炎はもはや消えようもない。劣情が心を満たしていくのが、自分でもよく分かった。これが堕落という事なのだろう、と想う。想えば想うほど、益々淫靡な行為に心酔していく。
 いつの間にか、浮かしていた腰が、もじもじと内側に擦れるように捩れていた。
「お姉様を如何するつもりなのだ?」
「どうする?」
「ああ」
 ティルローズが一歩踏み出したので、一瞬オーギュストがさすがに慌てた。だが、ティルローズがそれだけで脚を止めてしまい、ほっと心の中で冷たい汗を拭く。
「お姉様はサリスを背負って立つ大事な方……なのだ」
 目的は私なのだろ、と本当は問いたかった。ここに来たのも、そのためだった。しかし、最初の質問から、逸[はぐ]らかしてしまった。問えば、何かが変わったのかもしれない。だが、その一歩を踏み出す事が、ひどく怖かった。
「弓を貰ったり、二人っきりで演奏したり、あまり馴れ馴れしくしてもらいたくない……」
 この間もローズマリーは夢中で顔を動かし、必死に音を殺しながら、舌と唇でねちっこくペニスをしごく。緊張感からか必要以上に唇に力が入り、強く締め上げていた。温かな口腔が、まるで腟のように甘く収縮する。
「……ヌッ」
 オーギュストの顔が、引きつる。しかし、今のティルローズには、オーギュストの微妙な表情の変化に、気を巡らす余裕はなかった。
「まぁいい。心掛けよう――」
 オーギュストは含みのある言い方で答えた。
「……地獄に落ちろ!」
「その時は、お前も一緒だ」
 妹の言葉が胸に突き刺さる。まるで自分に言われているような気がした。だが、そう思えば思うほど、さらなる甘美な衝撃が脳をしびれさせていく。そして、喉の奥まで含むと頬が窪ませて激しく吸った。同時に、被虐的な官能に酔い痴れる。
「……」
 沈黙が流れた。そして、ティルローズは表情を消すと、ついに部屋を出ていく。何の収獲もなく、ただ虚しさだけの残る会話だった。

「あ、……ふぁ~ん」
 途端に、ローズマリーが甘い喘ぎ声を漏らした。そして、口を離すと指でしごきながら、潤んだ瞳でオーギュストを見上げた。
「早くぅ、おねが…い……」
 発情した雌猫のように媚びるような声を上げる。
「開いて見せろ」
 オーギュストの命令に、躊躇わず従う。ローズマリーは大きく脚を広げて、両手を使って秘唇を左右に開いた。独特の甘い香りが放たれ、サーモンピンクの秘肉が照明の光に照らされて煌めいている。
「もう…待てないの……」
 ローズマリーはここに至り自分の大胆さに顔を赤らめた。それがまた一段と秘唇から蜜を吹き出させる。絨毯にはすでに小さな水溜りができていた。
「もうじゅっくりじゃないか。舐めながら自分で弄っていたの?」
「あーぁん、い、虐めないで……」
 甘く鳴いた。
 オーギュストは足で、秘唇の回りをなぞる。
「あ、あーああ……焦らさないで……」
「ちゃんと言葉で言ってみろ」
 そして、言葉でいたぶる。
「言えないっ。ああ…言えないの……」
 繰り返し繰り返し否定の言葉を述べると頭を振った。そして、眉間を寄せて潤んだ瞳を恨みっぽく向ける。それを冷たいオーギュストの目が迎えた。
「……ああ、オマンコ。ああ……」
 ローズマリーは慄く。それは飼犬が主人の怒りに尻尾を垂らして恐れるのによく似ていた。ローズマリーは蚊の泣くような小さな声でささやく。言った後、涙を溢れシクシクと泣いた。そこには威厳溢れる皇女の姿はもはやなかった。
「たっぷり可愛がってやるよ」

 ティルローズは甲板に戻る。力を全て奪われたように、頼りなく歩いていた。
「……姫」
 突如、リューフが声をかける。
「……」
 無言で振り返ると、リューフは躊躇いがちに話し出した。
「ギュスが無礼な態度をとったと思うが、……謝罪する」
「……」
「あいつも悪気がある訳ではないのだ。ただ分かって欲しいのは、人を殺した後というのは、どうにも心が荒むのだ……」
「……え?」
 波の音だけが、二人の間に流れる。
「ギュスはあなた方をセリアに送り届けるだろう。その力がある。だから、今、あなたは、ここで……人を殺すべきではない……」
「しかし――」
「人を殺せば後戻りできなくなる。あなたを普通の生活に戻したい。極端に言えば、我々はそのために戦っている。我々を……ギュスを信じてもう少し待って欲しい……」
「……そうか」
 ティルローズは静かに頷く。リューフの不器用な言い方が、不思議と心を和ませていた。
「出過ぎた事を申しました。御気に触ったのなら、御勘弁を……」
「いや、ありがたい……」
 ティルローズは少し儚げに笑った。その頬に花火の赤い色が差す。そして、月の光が湖面にキラキラと光り、それらがティルローズの姿を美しく模っていた。

 焦らされ、熱く熟した秘唇にペニスが埋没していく。熱く潤んだ肉壁をかき分けて奥へ奥へと進む。
「んんっ……あっぁぁ!!」
 それだけでローズマリーは軽く達しようとした。
 オーギュストはインナーを引き裂いて、ローズマリーの胸を剥き出しにする。そして、乳ぶさを激しくもみ上げた。心地良い弾力がオーギュストの指を押し戻す。もうすでに胸の突起は硬く隆起していた。
「あん。あっ、イイ、イイ、イイのーぉ!」
 鼻にかかった甘い吐息が漏れる。
 一方で、オーギュストは埋め込んだまま動かさず、その熱い蒸れた感触を楽しむ。
「い……いかせて、いかせてッ、お願い致しますぅ~」
 焦らされたローズマリーが媚びた声を出す。そして、自分から腰を振った。
「ああ、イイッ……たまらないのぉ!!」
 ぴったりときつく絡み付けてくる感触に、オーギュストも酔い狂った。そして、会心の一撃を繰り出す。
「深…いッ! 奥まで…来てるぅ……だ…めぇ!!」
 寸前のローズマリーの顔は、一段と美しかった。ピ-ンと張った緊張感のある美貌が快楽に溶けて、エロティックな表情に変わっていく。眉間の皺がピクピクと揺れ、半開きの唇がわなわなと震えている。絶頂感を顔一杯に表現していた。
「イクッ、いっちゃううんッ!!」
 白い喉を反らして、愉悦の声を漏らす。そして、さらにきつくオーギュストを締め付けた。それに堪え切れずにオーギュストも白濁とした液を胎内に流し込む。
「はぁ…あっあっぁ……はああッんッああッ!!」
 ローズマリーも腰を突き出し、その放出を迎え入れて、最後の絶頂へと昇っていく。
「……じるぅ。感じちゃうぅのぉ」
 そして、視界が白く霞んでいった。


【セレーネ半島、エスピノサ】
 アルテブルグからの定期豪華客船が港に着く。
「ミカエラお嬢様、帰りなさいませ。お元気そうで何よりです」
 白髪の老人が、痩せた体を折りたたむ。
「お久しぶり。セバスチャン、あなたも元気そうね」
 ミカエラは爽やかに微笑んだ。
 濃紺のVネックニットをストンとはおり、ベージュの細身のチノパンツを穿いて、大人っぽいカジュアルな服装だった。
 ミカエラ・デ・スピノザ伯爵令嬢は、22歳になったばかりである。アルテブルグ大学に留学して、20歳の時首席で卒業している。AⅣを得ると、その後もアルティガルド王国に残り、宰相府の研修生となっていた。
 サリスの皇女達の輝く黄金の髪とは違い、暗くくすんだ色調の金髪を短くカットしている。すっきりした顔立ちの美人で、聡明で、洞察力に優れ、高い知性と実行力を併せ持つ。飾り物ような貴族的な美しさとは一線を画する才色兼備である。その特徴的な、落ち着き払ったブルーグリーンの瞳は、全てを見通しているかのようだった。
「お父様は?」
「一時はお危うかったのですが、だいぶ持ち直しました。きっとお嬢様の帰りの報せが、良い薬になったのでしょう」
「そう、よかったわ」
 二人は馬車に乗り込む。
「宰相府の政務実習は如何ですか?」
「そうね。寝る時間もないけど、遣り甲斐はあるわね」
「そう言えば、お手紙が届いておりました」
 手紙を受け取ると、裏返して、名前を見た。
「ベアトリックス先輩からだわ。懐かしいわ」
 丁寧に封を切る。
「お友達ですか?」
「ええ、AⅣの同期よ。同期と言っても向こうの方が二つ上なんだけど。研修でお世話になったの。今は軍のエリート参謀をやっているそうよ」
 一通り読むと、深い溜息を落とした。
「アーカスも大変な事になっているのね」
「これからどうなるのでしょう……」
「……分からないわ」
 セバスチャンがくすりと笑う。
「どうしたの?」
「いえ、お嬢様にも分からない事があるのだなぁと。ちょっと安心致しました」
「何よ」
 ミカエラも屈託のない笑顔を見せる。そして、窓の外へと視線を移した。
――サリスの復活は有り得るのだろうか……
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