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第七章 落花流水

第七章 落花流水


【神聖紀1223年7月中旬、サイト】
 白石屋の屋敷は、サイト南部の港に面した斜面地にある。山麓に、自前の港、造船所、蔵などが並び、最頂部には白石家の邸宅が堂々とそびえている。この間の斜面には、たくさんの木造建築が急な傾斜に立体的に重なり合っている。二階建てのものが多いが、どれも独特な外観を持っていた。黒い瓦の屋根、白い壁、そして、一二階ともに張り出したバルコニーには淡い空色を使い、特徴的な意匠を創り出している。エリーシア風のデザインを取り入れ、それを、ワ国の材料、構造で建設した為であろう。
 オーギュストは比較的低目の建物の中にいた。濃紺を基調とした騎士風の衣装を着ている。
「このように、五回連射すると、弦が切れてしまいます」
 2階のバルコニーに立つと、手摺に両肘を付いて、港とその奥にある岬を見詰めている。部屋の中では、若いワ国人の技師が図面を見ながら、熱心に説明を続けていた。
「この繋ぎ目を強化しなければ、衝撃に耐えられないでしょう――」
 オーギュストは、岬の木々に眼を凝らす。盛夏の烈日の下、碧く繁った葉々は輝き、湖からの風にさらさらと揺れている。その微かな擦れ合う音の中を突き抜けて、オーギュストの眼がさらに進んでいく。そして、葉と葉の重なり合う影の中で、時折人工的な鋭い光、甲高い叩く音、人々の喧噪などが僅かに潜んでいるのを感じ取った。
「ディーン殿?」
 すぐ横で、突然声がした。精神集中を解いて、オーギュストはゆっくりと瞳を動かす。そして、平静を装いながら、その技師の名を呼んだ。
「皆藤さん、何か?」
「ちゃんと聞いていましたか?」
「ええ、聞いていましたよ」
 ちょっと不審そうに左眉の端を上げる皆藤に、オーギュストは少年っぽく笑った。
「無理もないですね――」
 皆藤は一つ息を吐き、相好を崩した。そして、オーギュストと同じように岬の向こう側へ視線を飛ばそうとする。
「あそこには、うち(白石屋)の精鋭が集められていますからね。私もそれなりに気になっていたのですよ」
「噂では超巨大戦艦が建造されているとか?」
 オーギュストがさらりと訊く。
「さぁ、下っ端の私には分かりませんよ」
 皆藤は二十代後半の技師で、今回オーギュストの発注した連弩の製作主任を務めている。主任になって2年目で、人材豊富な白石屋の中ではまだまだ戦力とは呼べない程度であろう。身長はオーギュストと然程変わらず、細い目に丸い眼鏡をかけ、髪は短く刈り上げて、容貌はやや平均を下回っているだろう。
「ああ、私も参加したかったな……」
「すいませんね。こんな仕事で」
 緑の壁に遮られて、目的地に到達する事ができなかった視線を、慌ててオーギュストに戻す。
「いえいえ、……えーと、すいません。そんなつもりはなかとです」
 オーギュストはふと笑う。この青年は驚いたり、戸惑ったりすると、急に訛りが出てくる。そこが素朴さを醸し出し、好感を与えている。
「まぁ、成功すれば歴史に残る名機になるよ」
 オーギュストは部屋の中に戻り、肩越しに語る。
「私もそう思います。これは掘り出し物です。絶対見返してやる。……あっ! いや、そんな意味じゃ――」
「もういいですよ」
 オーギュストは苦笑しながら、手を軽く振った。そして、机の上の図面へと視線を落とす。
「ここの詳細図は?」
 オーギュストの声が真剣さを帯びると、皆藤もきびきびと動き、図面ケースを探って、目的の一枚を取り出す。
「いいね」
「あと5度はいけますよ」
 皆藤が自信たっぷりに言うと、オーギュストは何度も小刻みに頷く。
「誰か来た――」
「へえ?」
 オーギュストが急に顔を上げて、ドアの方を見る。皆藤が唖然とした表情をすると、ドアを叩く音がした。そして、「失礼します」と女性の声がする。
 皆藤が「はい」と答えると、ドアが開き、桜色のワ服に紫色の帯をした少女が入ってきた。白石屋の下女である。
「お茶なら注文してないよ」
「いえ、旦那様がディーン様をお昼に招待したいと」
 おかっぱ頭の少女が、かわいい笑顔で言う。
「分かりました」
 オーギュストは少女に答えて、椅子にかけてあった上着を手に取る。
「じゃ、これ全部青焼きしておいて」
「はい」
 オーギュストはそう言い残して、廊下へと出ていく。少女はそれを待って、静かにドアを閉めた。そして、「さあ」とオーギュストの前に出て、歩き出す。

 少女に案内されて、大木が生い茂る坂道を昇っていく。石段は角が丸くなって、歴史の長さを感じさせていた。両脇の石垣の向こうには、先程までオーギュストが居たような建物が並んでいるが、巧みに植物で見えないように工夫してある。
 階段を昇り切った後、梅やら桜やらの木々を抜け、小さな太鼓橋を越えると、目的地が見えてくる。上から見ると、蓮の葉ような形をした東屋で、中では石案(つくえ)を囲んで3人の男が談笑していた。
「やぁ、よく来られた」
 笑顔でオーギュストを迎えたのが、白石屋の当主で白石東洲である。ゆで卵のような顔をした小柄な男で、邪な事など考えた事もない、と言うような至高の笑顔を振り撒いている。だが、よくよくその顔の部品を見れば、どれも悪人顔の素材である事に気付く。
「ささ、どうぞ」
 白石東洲は、手を差し出して、空いた席へとオーギュストを導く。
「お招き感謝します」
 オーギュストは丁重に答えて、指定された席に座ると、向かいに座る怜悧な男と視線が合った。
――カフカ・ガノブレード……
 即座に、オーギュストは心でその男の名を呼ぶ。
「こちらはご存知かな?」
 白石東洲はもう一人の人物を紹介する。
「ええ、私の父です」
 その言葉に、白石東洲はきょとんとする。そして、「スレード卿」と助けを乞うような声を出した。
「面白い男でしょう」
「あなたと最初に会った時に、軍では私を父と思え、とおっしゃった」
「結局、軍に居た時は、一度も呼んでくれなかったがな」
 かつてのスレードは、頬がやや痩[こ]け、眼を大きく見開き、長髪をぴったりとオールバックに固めた男であった。しかし、この時は、すっかり白くなった長髪を、ボサボサと立てて、さらに、特徴的な眼はずっと閉じられたままである。
「そう言えば、ディーン殿もウェーデリアの軍人でしたね。では、こちらを――」
「カフカ・ガノブレードだ」
 カフカは無愛想に手を伸ばす。
「ディーンです。オーギュスト・オズ・ディーン。宜しくお願いします」
 オーギュストはその手を掴んで、ほんの短い時間、握手する。
“銀の氷剣”これがカフカの渾名である。長身で、一見して軍人と分かる屈強な肉体を持つ。若い頃から髪は白く染まり、薄く引き締まった唇に、瞳は薄い茶色をしている。表情からは愛想の欠片も感じる事ができず、頑迷が服を来て歩いていると評されている。この時、もう少しで40を迎えようとしていた。10年前までは、サイア王国軍の参謀であった。人一倍軍律に厳しく、大貴族の子弟であっても軍律違反には厳罰をもって報いた。しかし、それが彼の命取りとなる。恨みを買った大貴族に国を追われると傭兵となった。そして、エリーシア中を流浪する羽目となる。
「ディーン殿は、あのディアン義勇軍のお人で――」
「見事な戦だったな」
 カフカは白石東洲を無視するように、勝手に話し出す。
「偶然ですよ」
 オーギュストは澄まして返す。
「挑発、翻弄して敵将を誘き出し、これを矢で討ち取る。だが、俺に言わせれば無謀だ」
「ほお」
「矢を外していたら如何する?」
「それは困りますね」
「自信過剰か?」
 カフカはドライアイスのような視線で、オーギュストを貫こうとする。一方、オーギュストは絶えず笑顔をたたえて、その攻撃をいなそうとしている。
「いいえ」
「チャンスは一度きり。賭けを戦術の根幹にするとは。稚拙過ぎる」
「分かるんですよ、弓手は」
「何が?」
「矢を射る必要なんてない。弓を打ち起こした時に、的中{あた}るか、どうかなんて分かってしまう。少し手馴れた者なら」
「なるほど。俺は、弓は引かん」
 カフカは笑わず、さらに鋭く見据える。
 次第にオーギュストは口だけで笑うようになる。
 また、スレードは関心ない様子で酒を飲み続けている。その横で、白石東洲は震えだすほどの喜びを噛み締めていた。白石東洲はこれと見込んだ人物を合わせて、そこから生まれる化学反応を楽しむ趣味を持っていた。そのために、才覚のある者を選んでは、自宅に招いている。
「俺がアーカスにいたならば、君達を軽く破った事だろう」
 逸[はぐ]らかそうとするオーギュストに対して、カフカは氷の剣を振り上げて、正面から斬り込んでいく。
「カフカ殿、できれば、後学のためにお聞かせ願いたい」
 その時、白石東洲が目を輝かせて、まるで司会者のように仕切り出す。
「簡単、君達をナントに誘き寄せる」
「フェニックス・ヒルはナントの経済圏の境であり、防衛線の要である。そこを放棄しては、士気に関わり戦えまい。戦場になる場所にはそれなりの理由があるものですよ」
「だから、隘路で、さらには高所を奪われた後でも、戦いを続行するのか? 愚の骨頂だな」
 場の雰囲気に乗って、オーギュストも会話に熱が入る。カフカに負けない視線で斬り合っていく。
 だがそれ以上に、白石東洲は昂奮を隠し切れず、知らず知らずに身を乗り出している。
「ナントには3年間を支えるだけの食糧を蓄えていた。対して、君達には一か月分にも満たない。だろ?」
 オーギュストはゆっくり瞬きをして、暗にカフカの問い掛けを認めた。
「だから、君達は速戦即決を求めた。相手の注文通りに動く事など、俺に言わせれば、これ以上情けない事はない。君達は、君は自分たちの存在、いや、サリス皇女の存在をことさら大きく見せ、危機感を煽った。一方で自分自身、すなわち戦力を小さく見せ、アーカスの驕りを誘った。だろ?」
「ディーン殿?」
 白石東洲がオーギュストの顔を覗き込む。それに押されるように、オーギュストはしぶしぶ小さく顔を縦に振った。
「君がどんなにナントを攻めようとも、備えのあるナントは、そう簡単には落ちない。その間に、別働隊を迂回させて、フェニックス・ヒルに蓋をする。補給線を失って、君達は瓦解していった事だろう」
「さすが……ですね」
 オーギュストは降参と言わんばかりに、手をゆっくりと叩く。それを見て、白石東洲は、「兵は詭道なり」と満足げに頷いている。
「では、少し未来の話をしよう」
「それは、それは」
「ナントを手に入れた君達は、王都サンクトアークを目指すが、さすがに危機感を持ったアーカスは手強く抵抗する。さらにサンクトアークは、幾何学的な城壁と稜堡を備えた本格的な近代城郭だ。兵糧、武器、功城準備を整えるだけで数年は必要だろう。その間に、カリハバールを、別の勢力が倒すだろう。君達はナントという辺境に取り残される。そして、時代とともに忘れ去られる」
「なかなか、面白い分析ですね」
 オーギュストはいつの間にか前に置かれていたお茶を口に運ぶ。それを見て、カフカもお茶を飲み、白石東洲も同様に啜った。
「私の標的は、カリハバール、並びに、この世界に混沌を呼ぼうとする不逞の輩。私的野心の達成にも、サリスの復興にも興味はない」
 暫しの沈黙を破って、今度はオーギュストから始まる。
「それは君自身がサリスとは一体ではないと言う事か?」
 さぁ、とオーギュストは恍ける。そして、笑顔で振り返って、下女にお茶のお代わりを求めた。
 しばらく、カフカは無言で目を閉じる。そして、「仕事の時間だ」と立ち上がった。
「今日は有意義な時間を過ごせた。感謝する」
 カフカは白石東洲に始まり、次にスレード、オーギュストと握手をする。白石東洲は、「そこまで送りましょう」と一緒に東屋を出ていく。
 そして、スレードとオーギュストが残された。
「大盤振る舞いだな」
「何も値踏みをするのは、年長者だけとは限らない。尊敬に値するのか、学ぶべきものがあるのか、常に年少者は見ている」
 スレードは酒の入ったグラスを置いて呟く。一方のオーギュストは、立ち上がり、窓辺に立つと、スレードに背を向けた格好で答えた。
「ははは、面白い事を言うようになった」
 スレードが酒臭い息を吐いて、大笑いする。
「その眼はどうされた?」
「“G・O・D”だ」
「?」
「知らんか? 最近やけに活発に動き回っている訳の分からん連中だ。目的もよく分からんが、ただ高度な魔術を駆使する。一説には、大魔王ルシフォンの残党とか……」
「ルシフォン……ダークエルフの族長ですか?」
「あくまで噂だ。そうそう噂でいいのなら、カリハバールと地下茎で繋がっている、とか言うのもあるぞ」
「……」
 オーギュストは振り返り、スレードを見下ろす。
「おかげで一歩前進した気分ですよ。やはりあなたはこの時代に必要な人らしい」
「ふははは。光を奪われ、国を追われ、今はこうして商人の世話になっているしがない老人だ」
「あなたは私が会った最初の本物だった。何せあなたは俺自身気付いていない能力をすぐに見抜いたのだから――」
 スレードは何も答えず、ただ不健康な笑い方をしている。
「畏敬の念を抱く、一方で、あなたの覇気に吹き消されないように、一定の距離を隔てた。本物であるあなたに無能と罵られる事を恐れた。しがない子供のささやかな自己防衛でした」
 オーギュストはスレードの背中を通って、入口へと進んでいく。
「またお会いしましょう」
 そして、振り返らずに、そのまま東屋を出て行った。


【ロードレス神国ツヴァイトモーント・ジオ大神殿】
 ウェーデル山脈の標高1,000mを越えた高原には、小さなカルデラ盆地があちこちに存在している。その底に小さな泉が湧くものがあり、その周囲には少ないが緑が育まれている。人々はこの盆地を囲む石の壁を掘り、不思議な石窟都市を築いた。ドワーフの協力を得て作られた壁面の建造群は、中原の技術を凌駕する見事な出来栄えで、特に神殿に並ぶ巨大な神像や壁画などの美しさは、言葉では言い尽くせない。その荘厳な光景に、来訪者は必ず言葉を失うと云う。
 この石窟都市の中で最大のものが “ツヴァイトモーント(第2の月)”である。このツヴァイトモーントには、国の最高権威者である総大主教があり、ロードレス神国の首都として政治と宗教儀式を司っている。また、他の地方都市には、各大主教がおかれ、そして、総大主教の補佐役として枢機卿があり、国政全般を担っていた。
 現在の総大主教はコンスタンティノス5世である。彼は若い頃から人格者として知られ、大主教までの出世はかなり速かったが、そこからはかなり待たされた。総大主教に選ばれてからは、神職者基本法を制定し、倫理の徹底を計っている。また、アルティガルド王国との関係修復に努めていて、一般的には穏健派とされている。すでにかなりの高齢で、黒衣で全身を覆って、水分が枯れ果てて皺と筋だらけになった肌を常に隠している。

 アフロディースは夢を見ていた。
 異様に大きな月が赤く輝いている。その下には暗い闇が広がり、ただ月の真下だけは赤く照らされて、薄い水の幕がある事が分かる。
 その上に女性がいた。いや正確には、アフロディースの分身がそこに立っていた。分身は暗闇の中を頻[しき]りに睨む。
「何かいるのか?」
 闇の中で影が蠢く。
 アフロディースの剣が振り下ろし、闇を切り裂く。
「あなたは誰?」
 男は素早く飛び下がり、それをかわした。男の口は裂け、筋肉が盛り上がり、肩や膝からは刺が突き出て、背中からは無数の触手が飛び出している。
「ヴォオォォ!!」
「お前は魔獣人! という事は、これは夢か……」
 面倒だ、とアフロディースは吐き捨てる。
 あの時、魔物を通して男の残留思念が、アフロディースの精神に潜り込んで来たのであろう。駆除しなければならない、と固く決意する。
「さぁ、覚悟しなさい」
 言って、強く唇を結ぶ。
 と、無数の触手が襲い掛かる。剣でそれらを軽く払うが、ついに一本が左足に絡み付いた。
「くっ」
 動きが止まった刹那、触手は大きく上へ跳ね上がり、アフロディースの脚を強く引っ張り上げた。そして、アフロディースを仰向けに倒してしまう。
 水面にアフロディースを中心に波紋が広がり、それは闇の中に消えていく。
 無数の触手がアフロディースの身体に纏わり付いてくる。白い太股に触手が這いずり、ネトネトした液体が美しい肌を汚していく。振り解こうと手足を動かしても、触手の勢いは止まらず、清楚な神官服をズタズタに引き裂いていく。
 その時、霧のようにぼやけした声が、心の中でした。
「え?」
 その聞き覚えのある声で、アフロディースの剣が神々しく光り輝く。
「これは……?」
 戸惑うが、その光によって触手は溶けるように消えていく。
「うごうぉぉぉ!!」
 男は吼え、頭を抱えて、後方の闇の中へと逃げ出していく。
「はっ!!」
 アフロディースはその光の剣を振り、闇を一閃した。男の体は半分に裂け、霧のように粉々に散っていく。
………
……

 アフロディースはベッドから跳ね起き、周囲を一瞥する。だが、そこは、夜の静寂に包まれた質素な自分の部屋である。
「夢……だったのか?」
 額の汗を一撫でして、安堵の息を吐く。
 と、ドアを叩く音が鳴り続いている事に気が付いた。
「な、何だ?」
「夜分申し訳ございません、アフロディース様。大主教がお呼びです。至急大神殿までお越し下さい」
「分かった。10分待て」
「はっ」
 アフロディースは額の汗を拭い取ると、喉の渇きを感じつつ起き上がり、浴室へと向かった。

 ツヴァイトモーントは異様な緊張感に包まれていた。アルティガルドとの国境付近で、アルティガルド王国軍が盛んに演習を繰り返し、示威を行っていた。それに対して備えを整えている時、全く反対の街が悲劇に襲われる。
「“フュンフトモーント(第5の月)”の街が壊滅的被害を被った」
 ゲオルギオス大主教の前に、アフロディースが跪く。
「何が起こったのです」
「調査では地震らしいが……」
 ゲオルギオス大主教は口を濁す。
「何です?」
「あそこの地下神殿には、魔物が封印されていた……」
 言葉を選ぶように、慎重に話し出す。
「魔物とは?」
「100年程前のレオン総大主教が、大魔王ルシフォンの力を借りて、合成獣を作り出した」
「そ、そんなぁ…」
「真実だ。レオン総大主教の死後、証拠は全て抹殺されたが、強力な合成獣だけは処分できずに、地下神殿に閉じ込めていた」
「まだ生きていたのですか?」
「声を聞いた者が多数いる」
「……」
 アフロディースは黙り込む。
「今回、その地下神殿が最も被害を受けていた。何者かが合成獣を連れ出したのかもしれん」
「そんな事ができるのは……」
「おそらくG・O・Dだろう」
「……」
「お前には、これを追跡して、すべてを闇に葬れ」
「はっ! しかし……」
「現地の主教の一人で、アキレウス主教が行方不明になっていた。だが最近、セレーネ半島で目撃したという報告があった。お前はオルレランへの使節団に加わり、かの地に赴け」
「はっ」
 アフロディースは新たな任務に、表情を引き締める。


【ポーゼン】
 フェニックス・ヒルの戦いの後、一旦ナントに拠ったカルロス2世だったが、すぐにサンクトアークへと退いた。フランコ、アルフォンソ、そして、カルロス2世と続けて主人{あるじ}を失ったナントを、エルナンデス、ガルシアの両名が攻め落とす。そして、これを手土産にして、二人はサリスの傘下に入った。こうして、オーギュストがサイトに滞在している間に、サリスはナントを得た。
 その直後、問題が起こった。リューフがサンチェスを斬った。
「リューフ殿、訳を聞かせて欲しい」
 急遽開かれた査問会の席で、ペルレスが問う。だが、リューフは沈黙し、一言もしゃべらない。代わりに、ナルセスが早口で捲くし立てていた。
「ティルローズ様への無礼が目に余ったからだ。そもそも我等がここに集ったのは何のためだ。あのような輩に、ローズマリー様やティルローズ様を蔑ろにさせるためか――」
「その通り!」
 マックスがよく通る大きな声で、要所で相槌を打つ。そのマックスの横にはパスカルがいる。そして、フェニックス・ヒルの戦いで、歩兵隊の指揮官として武勲を上げたフアン・カステラル。さらに聖騎士の中でも、ミレーユ・ディートリッシュ、ゴーチエ・ド・カザルス、ロベール・デ・ルグランジェの若手三人衆も並んでいる。ナルセス一派はまさに日の出の勢いだった。
 この攻勢にペルレスは沈黙し、場の雰囲気は不問にする流れとなっていく。このままナルセス一派の想い通りになるのか、とペルレスが心配していた時、新たに意外な合流者が現れて、査問会は一旦中止となった。
 ナルセスなどが唖然とする中、その男は颯爽とマントを翻して、ローズマリーの前に膝を付く。
「マリー、遅くなってすまない」
「アベール……さま」
 驚きのあまり、両手で口を押さえて、思わずローズマリーは立ち上がる。
 男は聖サイアの王太孫アベール・ラ・サイアである。アベールはジャン・フェロンとゴーティエ・デ・ピカードの二人を従えていた。
 フェロンはカリハバール占領下で、民兵を率いて抵抗運動を続けていた。また、ピカードはサイアの蒼鷹騎士で、地味で寡黙な武人だが、忠誠心、責任感、勤勉、公正、規律性に優れている。まだ三十代だが、頭部は後頭部まで禿げているのが特徴である。
「これからは、僕が君を守るよ」
 アベールは瞳を潤ませて、甘い声でささやく。それに堪え切れず、ローズマリーは玉座から立ち上がり、階段を駆け下りて、アベールの胸へと飛び込んでいった。
「アベール様、生きていらっしゃったのですね」
「ああ、君のために、泥水を啜り、地を這って、君に会える事だけを心の支えに生き延びてきた。今、この拾った命を君に捧げよう」
 アベールは慣れた感じで、優しくローズマリーを抱き締める。
「誰だ……?」
「俺が知るか!」
 マックスはきょとんとして、ナルセスは袖を引っ張る。ナルセスは半分口をあけたまま、不器用にその手を振り解いた。
「……」
 ティルローズはその光景を横から見ていて、思わずもらい泣きをしてしまった。その時、ペルレスが不安げに耳打ちをしてきた。
「このままでは……ギュス殿との関係が拗れますな」
 その言葉に、ティルローズの胸に熱い衝動が突き走った。
――あの男は……如何する気だ……!

 翌日、サリス軍幹部の前で、改めてアベールが紹介される。
「サイアの王太孫アベールである。僕は、ブルサの戦い後、ヴェガ山脈に篭り、ここにいるピカードやフェローとともにカリハバールと戦いつづけてきた」
 アベールは力強い声で、すらすらと演説をしている。
「要は逃げ回っていた、という事だろ」
「しっ」
 最前列に並ぶマックスが低く呟く。それを、ナルセスが短くたしなめた。
「まずは傷の所為で記憶を失い、ここに至るのが遅れた事を詫びる。だが、これからは、不肖このアベールが先陣に立とう。以後、サリスの白亜聖騎士、サイアの蒼鷹騎士、さらにアーカスの諸侯の壁を払い除け、一致協力して、サリス・サイアの復興に尽力して欲しい」
 即座に、エルナンデス、ガルシアの他、ナントのフランコ残党派がアベール支持を打ち出した。こうして、サリスの最大派閥が誕生しようとしていた。
 演説の最後に、アベールはナルセスを見下ろしながら叫ぶ。
「これからは何よりも規律を重んじる」
――ちぃッ!
 思わず、ナルセスは心の中で舌を鳴らす。
「これからどうなってしまうんだ……」
 ティルローズがささやく。
「このままではナルセスなど今まで戦場で戦ってきた者達が収まりますまい」
 その横で、ペルレスが呟く。
「しかし、お姉さまはあのように喜んでおられる」
 ティルローズの瞳が、無邪気に微笑むローズマリーを写す。
――……教えて欲しい。私は如何すればよいのだ……


【昼、サイト】
「あっ、そこにおいて」
 甲板に天幕を張り、その下でロッキングチェアーに座って、オーギュストはだらりと寛[くつろ]いでいる。服装は船員らしく白いセーラーを着ていた。
「で、どうなったの?」
 横には、魔術通信機が無造作に置かれている。それで会話しながら、時折、船に荷物を積み込む人夫に、大雑把に指図を出していた。
「うそー! 普通信じられんだろーぉ」
 オーギュストは足をばたつかせて、楽しそうに笑っている。
「記憶喪失なんて、そうそううろうろしていなだろう、普通。で?」
 ケラケラとオーギュストは下品に笑った。その姿が不気味で、人夫は白い目で見ている。
「あらら、リューフは謹慎か。そいつはかわいそうだな」
 その時、「悪い」と人夫をかわしながら、騎士姿の者が船に飛び乗ってくる。
「あっ! もういいや」
 オーギュストは驚き口を開いたまま、魔術通信を切る。不満げに絶叫するマックスの声が、一瞬でかき消された。
「おやおや、意外と冒険好きだね」
「はぁはぁ……こんな所で呑気に和みやがって!」
 男装したティルローズが、荒い息を吐きながら、オーギュストを鋭く睨む。
 オーギュストは急に立ち上がると、人夫に叫んだ。
「そこまで」
 すぐに人夫を船から下ろし、桟橋に荷物を置いたまま出港する。


 アベールはローズマリーとともにナントへ移る。その時、ティルローズは咄嗟にポーゼンに残りたいと願い出た。理由は、まだ完全に支配体制の整っていないポーゼンを守るためと説明した。
「どうして、今までずっと一緒だったのに?」
 急なティルローズの言葉に、ローズマリーは眉の間に不安を漂わせる。
「私がナントへ行っても役に立たないでしょう」
「そんな事はないわ……」
「今はアベール様も居られますし。それより、お姉さまの片腕として、代理として、ポーゼンを守りたいのです」
「よく分かったよ。ティルちゃんにも想う所があるのだね」
 ローズマリーの横で、アベールは最高の笑顔で承諾した。
「納得してから、また後から来ればいい」
「ありがとう」
 しかし、ティルローズはまだ自分の心と、これから行うであろう行動に戸惑っていた。
――お姉さまは今どれほど危険な状態なのか分かっていらっしゃらない。でも、私にはどうすればよいのか。答えが見つけられない……
 そして、姉が出発すると、すぐに白石屋の船に乗り、サイトへの向かった。

「全く無茶をする」
 ティルローズの話を聞いて、オーギュストは呆れて苦笑した。
 船は追い風に乗って快適に進む。薄いコーヒー色の帆を大きく膨らみ、力強く帆柱をしならせていた。その帆柱の影が東に長く伸びて甲板に落ちている。オレンジ色の水面には、船が切り別けて立つ白い波が鮮やかに描かれている。
「自分でも自分の無謀が恐い。だが、あの時は、お前に知らせなければならない、とそればかり考えていた……」
「今頃、サイトは大騒ぎだろうな。賞金ぐらい出ているかもよ」
「……だろうね。追いかけて来るかも?」
 ティルローズは面映いようすで、顔を赤くして俯いた。
「この船に追いつける船は、エリース湖にはいない。問題なのは前方だ。セレーネ半島の艦隊に掴まらなければよいが……」
 オーギュストは操舵輪を握り、頬を打つ風に、髪を靡かせている風に、気持ち良さそうにはしゃいでいる。それは今まで見せた事のない純朴な少年っぽい表情だった。
「ふふ」
 操舵輪の左前の船縁に座って、ティルローズは顔を伏せ気味にしたまま、思わず笑い声を零す。
「おい、笑うな。緊張感に欠けるぞ」
「ああ、そんなものは最初からないね」
 ティルローズは思いっきり顔を振り上げた。朱に染まった空を仰ぎ見て、さっぱりと吹っ切れたように軽く言った。
「うん?」
 意外なティルローズの反応に、オーギュストも不思議そうに見詰めた。
「お前なら何とかするさ」
「え?」
 美しい瞳を真っ直ぐに、オーギュストに向ける。
「お前はいつも勝つ」
「……他力本願かよ」
 ティルローズはこの船にかけ乗り、オーギュストを見つけた瞬間、それまで張り詰めていた不安や悩みが霞んで消えていくのを実感していた。
「そうね。だって皇女様だもん」
 言った瞬間に、ティルローズの顔に水飛沫が飛ぶ。
「皇女様でも水は関係ないらしい」
 オーギュストは苦笑する。
「濡れるぞ。船室にいろよ」
「うん」
 ティルローズは素直に頷いていた。きっとこの美しいエリーシアの自然がそうさせているのだろう、と想う。

 夜になっても、船は速度を落とさない。オーギュストは相変わらず、甲板を忙しく走り回って、巧みに船を操っていた。一方、ティルローズは船室で一人、鏡の前に佇[たたず]んでいた。鏡には、ワインレッド色の艶やかなドレス姿が写っている。大きく開けた胸に手を当てると、心臓が警鐘のように鳴り響いている。
「どうした、これはあなたのたたかいでしょ……」
 そう鏡の中の自分に言い聞かせると、きっと下唇を噛む。そして、壁に吊り下げられている袋の中から、はさみを取り出すと、ドレスの裾を掴んで、一気に太腿の辺りまで切り裂いた。
 その直後、オーギュストが船室に降りてきた。この船室は多目的用途に使われて、部屋全体が白く殺風景である。実用的な長方形の白いテーブルが中央にあり、その上にランプがある。船首側には立派な厨房もある。
「望遠鏡で周囲を見渡したが、船の灯りはまだ遠い。今のうちに食事をしておこう」
「え?」
 オーギュストに気付いて、ティルローズは少しビックリしたように瞳を大きく開いた。それから、あわてて袋の中にはさみを押し込む。
「な、何か手伝おうか?」
「猫の手にもならん」
「……だよね」
 その後、ティルローズはテーブルに両肘を付いて、ぼんやりと揺れるランプを眺めていた。オーギュストはそんなティルローズに一切構わず、その時間さえ惜しんでいるに動き続けている。
 オーギュストは厨房からすぐに戻ってくると、ボールを左腕に抱えて、菜箸で具をかき混ぜている。
「どうぞ。明太パスタだけど、口に合うかな?」
 そして、ボールをテーブルの中央に置いて、棚から皿を二枚取り出した。
「あ、ありがとう」
「おっ、今日はつくづく素直だね」
 オーギュストは陽気に笑っている。
 それに対して、ティルローズは少し緊張しているようで、かすかに口もとほころばせる。
「それにしも、この船の名前もそうだけど、ほんとパスタが好きなんだな?」
 当り障りのない話題を振って、ティルローズは硬い動きで脚を組んだ。その際、ドレスのスレッドから、白くしなやかな太腿が露出させる。
「あ、それ俺じゃない」
「え?」
 オーギュストはパスタを口いっぱいに頬張りながら言った。
「ナルセスの子供が好物らしいよ。カルボナーラね」
「そう」
 ゆっくりと脚を組み替える。
「本当は、"スレイプニル"という名前だったんだけど、訳分からんと変えられてしまった」
 また、オーギュストは陽気に笑う。
「そう」
――こうして他愛もない会話していると、本当に少年ように見える。いったい何処にあれだけの力を隠しているのだろうか……
「俺の顔に何か付いてる?」
 ただ呆然とオーギュストの顔を見詰めていて、ティルローズは慌てて視線を逸らす。日常{いつも}のオーギュストとは違う、明るい少年のような表情に、ティルローズは戸惑っていた。
「気圧が下がっているな」
 オーギュストは壁の水銀柱を見て呟く。
「嵐になるの?」
「たぶんな。これで撒けるかもしれん。」
 調度その時、船が激しく揺れた。ティルローズは衝撃で床に転げ落ちてします。
「いたっ、ちょっ……何!?」
 痛みに表情を歪めていると、唐突にオーギュストの顔が迫っていた。そして、強引に抱き起こすと素早く廊下を挟んだ隣の部屋に運ぶ。
 ティルローズは思わず息を飲む。そして、きゅっと身体は固くした。息が詰る一方で、激しく心臓は鼓動し始める。苦情も反論も抵抗も何一つできない。思考はいたずらに空転するばかりだった。
「……」
 オーギュストは一言も説明せずに、素早くティルローズを、簡易ベッドの上に投げ出す。
「……」
 恐いのか、嬉しいのか、恥ずかしいのか、おそらくその全てであろう複雑な感情が、胸の中で激しく渦巻く。
――これでいいのだ。私さえ犠牲になれば、そして、お姉様とアベール様は幸せに、きっと……
 真っ白に染まった思考の中で、そうもう一人の自分がそう呟く。だが、本当にこれでいいのか、こんな状況でいいのか、という不安で不満な想いが、じわりと心の底へ滲んでいく。
「わ、私はそんな女じゃない」
 ずたずたに分断された思考回路が一つの行動を生み出す。奥歯を強く噛み締めて、力いっぱいに腕を振り抜く。寸分狂わずオーギュストの左頬を掌が捉えた。
「もっとタイミングとか、ロマンティックな雰囲気とか、色々あるでしょ! 私はサリスの皇女なのよ。何でも望めば手に入るのよ。あんた凄いんでしょ! 奇蹟とか起こしなさいよ!!」
「そんなに元気なら大丈夫だな」
 オーギュストは二撃目三撃目を受け止めると、頭の上に腕を押さえ込んで、その隙にベルトで腰の辺りを固定する。
「はい、ここに握る」
 そして、彼女の手を取って、頭の上のパイプを掴ませると、さらりと言う。
「さぁ血が騒ぐ!!」
 オーギュストは腕まくりしながら、甲板へと意気揚々と向かっていく。
「……」
 独りベッドの上に残されたティルローズは、呆然として、しばらく状況を飲み込めずにいた。そして、次第に、悔しさとも腹立たしさとも言い尽くせぬ激しい感情が湧き上がってくる。
「女の、プライドが……許せないわ」
 パイプがキリキリと悲鳴を上げた。

 激しく船は揺らいだ。時に浮き上がり、時には左右に身体が転がり、時には頭を壁にぶつけた。ティルローズは何度も吐きそうになった。
 だが、その揺れがぴたりと止まった。壁にかかる時計を見れば、もう深夜を過ぎている。
 ティルローズはベルトを外して船室を出た。そして、甲板に出るまるで梯子のような急な階段を昇り、甲板に顔を出す。と、思わず目を瞠[みは]った。
「あ!」
 あまりの光景に、そこで魂が奪われてしまう。ティルローズは愕然と周りを見渡した。そして、驚愕とも畏れともつかない声を発する。全身に鳥肌が立っていた。
「これは……?」
 甲板を歩くティルローズの膝が震える。と、オーギュストが振り返った。
「湖の中だ」
 然も簡単に答える。
「非常識だ……あまりにも……」
 船の周囲は青一色に染まっている。天は見上げれば、暗くだが何かが揺らいでいる。船の下を見れば、湖底の岩や砂が鮮明に見えている。
「大丈夫。船を神装障壁(グラビトン・シールド)で囲んでいるから、水が来る事はない」
「そんなことじゃない」
 ティルローズは船の右方向を指差す。その指の先、少し離れた場所では、水が大量に噴き出し、まるで白い柱が立ち昇っているように見える。
「ああ、あれね。あれが有名な伝説のエリース湖底神殿だ」
「……素晴らしい。これこそ神の世界だ」
 そのあまりに清らかな水の世界に、ティルローズは瞳を潤ませていく。これほど透明で、これほど清楚で、これほどか身の存在を感じさせる場所があるだろうか、ティルローズは思わず跪いていた。
「おお、女神エリースよ……」
 祈りを捧げるティルローズの背後で、オーギュストがそっと彼女の肩にストールをかける。
「少し寒くなる」
 薄いベージュ色をしたストールは、光りの加減でバラ柄の地模様が浮き出て美しい。
「あ、ありがとう」
 そのままオーギュストはストールの上から、ティルローズを抱き締める。
「え?」
「俺は君に誰も知らない世界を見せた。今、ここを見た者は俺たち以外誰もいないだろう。今度は君が俺に……誰も知らない君を見せて欲しい」
 オーギュストはそのまま首筋に口づけをする。
「わ……わかったわ」
 震える声で答える。
「だから、優しく…キスをして……」
 ティルローズは首を捻ると、オーギュストはその可憐な唇を奪う。濡れた唇同士が軽く触れ合った。これがティルローズの初めての口づけだった。

 ティルローズはそっと目を伏せる。心の中を経験した事も無い嵐が吹き荒れていた。拒否する心と受け入れる心が激しく葛藤する。それを気付かれまいと必死で平静を装った。
 服は自分で脱いだ。それが自分らしいと思えた。ベッドに仰向けになると、瞳を閉じて、オーギュストを待った。その裸体を見て、オーギュストはカナン半島での事が思い出す。そして、シミ一つ無い滑らかな肌をオーギュストは心行くまで堪能する。
「……」
 まず、オーギュストは無駄な贅肉のない腹部に舌を這わせた。
「……」
 そして、両手で乳ぶさを揉む。
「……」
 それから、その間に顔を埋める。
「……」
 その後で、片方ずつ、桜色の小さな乳首をしゃぶった。
「……」
 それでもティルローズは声を洩らさず、唇を強く結んでいる。閉じた瞳の辺りには、必死に苦痛に耐えようとするように、力が入っていた。
「……」
 オーギュストは全身をくまなく舐め尽くす。
 腕を掴んで持ち上げて、開いた脇を舐め、そのまま横に倒して、首筋を舐め上げる。左手は乳ぶさを摘み、右手で黄金の髪をかき上げる。
「……」
 露になった耳に舌を差し込むと、熱い息を吹きかける。
「……」
 耳から頬へ移り、それから再び唇を奪った。
「……ん……」
 ティルローズは徐に腕をオーギュストの首に回して、ぎゅっと抱き締めると、強く唇を押し当てていく。
 ぷちゅ、ぴちゃ、ねっとりと舌が絡まり、
 じゅるぅ、じゅちゅるぅ、と貪るように口を吸い合う。
 そして、二人の交じり合った唾液を、おいしそうに飲み干していく。
「……ん、ん……」
 一瞬、ティルローズの裸身が小さく震えた。硬く閉じられていた薄い唇から、微かな吐息が洩れ出す。
「あの夏の日を覚えているか?」
 オーギュストは両手で体を支えて、ティルローズとの間に僅かに空間を作ると、甘く問い掛ける。だが、ティルローズはそれには答えず、躊躇いながらも質問で返してきた。
「……ねえ……どうして私なの?」
「お前がエリースに愛される女だから」
「もう一つ訊かせて……どうしてあなたなの?」
「俺がオーディンに選ばれたから。あの夏の日、君の望みを叶えるためだけに、俺は自分本来の人生を失った。だが、俺は後悔などしていない」
 オーギュストは、ティルローズの細い顎を掴んで引き寄せる。
「そして、今度は私が人生を捧げるのね」
「ああ、君と俺とは永遠に離れられない。それがオーディンとエリースの望みだから」
「あなたの望みは何?」
「君が望む物全て。そして、君が一緒にいてくれるのなら、君に華胥の国を見せる事を誓おう」
「……あたしでいいのかな?」
「お前は美しい。何よりも俺の心をときめかせる」
 オーギュストの言葉が、固く閉ざした心に突き刺さり、そこからじんわりと温かさが広がっていく。ティルローズの頬を熱い涙が流れていく。
 オーギュストはその涙を指で拭って、そして、三度唇を重ねていく。それを先程よりもさらに積極的に受け入れていく。
 それから、オーギュストの手が下半身へと伸びた。金色の恥毛を掻き分けて、指が秘唇に触れると、ティルローズは控え目な吐息が洩らす。
「ああ……」
 真っ白でしなやかにのびた脚を持ち上げると、指先から丹念に舐めていく。足首、脹脛、膝の裏、太腿の内側と、舌は這い続ける。
「あああっ……」
 最後に、両足首を持って大きく開くと、そこに顔を埋めていく。そして、二本の指で秘唇を左右に開らいた。鮮やかな色彩の柔肉が曝け出されて、そこから淫蜜が、たらり、と垂れ落ちる。
「ああっ……あんっ……ああんっ……」
 爪で肉襞を捲って、かくように愛撫すると、さらに蜜をトロトロと吐き出す。ティルローズは電流に打たれたように身体を小刻みに震わせ、呻き声でリズムを刻む。
 いつの間にか、オーギュストの肩の上に、ティルローズの脚があった。オーギュストはティルローズの締まった腰を下から抱え上げて、剥き出しになった秘裂へ舌を伸ばしていく。
「んぁあん……イイっ!!」
 舌で秘裂をかき回し、蜜を淫靡な音を立てて吸う。
「ああああーーーっ!!」
 長い喘ぎ声の後、弓のように身体を反らす。そして、秘唇からは愛液を勢いよく吹き出し、甘酸っぱい女の香りを辺りに振り撒いていく。
「ん、んんんん、んんん」
 オーギュストはその密の味を美味そうに飲み干す。
「ひぃあーーーーん」
 ティルローズはその甘美な快楽に思わず甘い喘ぎ声を洩らし、凛々しい口から一筋の涎をたらした。
「変になっちゃう、変なっちゃう……」
 そして、繰り返し繰り返しそう洩らした。
 オーギュストは頃合と見て、脚を肩から下ろして、太股を脇に抱える。そして、手を添えて、秘唇にペニスを宛がう。それから、しっかりと腰の辺りを掴んで、腰を押し込んでいく。
 瞬間、ティルローズがもんどり打った。
「ひぃーッ! あっ……がっ……」
 脳まで痺れさすような衝撃に、ティルローズは身体を弓なりに仰け反らせて、シーツを激しく握り締める。
「うぐうっ……痛い!!」
 これ以上開かないというほど大きく広げた目に涙が滲む。ティルローズは暴れ狂う苦痛に絶叫した。
 それでも、オーギュストは容赦せず、じっくりと突き刺していく。
「あっ、はぁ、ああっ、はぁ、あっ……」
 パクパクと魚のように口を開き、初めての感覚に喘ぐように呼吸する。入口では、粘膜が擦れる度にパチパチと稲妻が走り、身体を引き裂かれるほどの電撃が背筋を駆け登って脳天まで貫く。
「や、止めてぇ! あ、あ、もう無理よ」
 ティルローズの美貌が激痛に歪み、悲痛な声で訴える。
「これくらいで弱音吐いてどうする」
 オーギュストはさらに奥へと挿入を続ける。そして、最深部の壁まで達した時、ついに観念したのか、ティルローズの抵抗が急に弱まってしまった。全身に張り詰めていた強い拒絶の意思が、ぐちゃり、と溶け出したように、オーギュストの思いのままに手脚を、腰を舞い躍らせていく。
「……あひぃ、あひっ、ひっ、ひぁん、ひはぁん……」
 身体がカァッと熱くなる。その熱に犯されて、頭は真っ白になり、もう何も考えられず、ただただ短い悲鳴を上げつづける。
 オーギュストは会心の笑顔をたたえて、ゆっくりと出し入れを始める。
 潤んだ膣穴は激しい収縮を示す。清らかな秘唇は左右に大きく広がり、そこを出入りするペニスがねっとりとした淫蜜に、ぐっちょり、と濡れた。
 右手が美しい乳房をこねまわし、左手が腰の括れを這う。ティルローズの顔は紅潮し、泣き声ともよがり声ともつかぬ喘ぎ声を洩らしていた。
 脚がオーギュストの腰に巻きつき、腕がしっかりとオーギュストを抱いた。自らキスを求め、口を吸い、舌を絡めた。一体感が言い様も無い満足感を与え、身体の芯が熱く膨張してゆく。自分が今満ち足りていると実感した。
「あっ、あっ、あっ……」
 オーギュストの動きに合わせて、ティルローズは短い吐息を出し続ける。
「ああ、ギュス。お姉様よりも……もっともっと愛して……あたし……あたし……お姉様には負けない……」
 ティルローズは思いがけない事を口走っていた。高熱で理性が溶け出し、心の最深部に眠っていた感情があらわになったのだろう。おそらく自分で何を言っているのか覚えてはいない筈である。
「ああ、綺麗だ」
「あたしお姉様より……愛されたい……」
 ティルローズの脳裏にあの日のローズマリーの痴態が鮮やかに蘇り、溢れ出す喜びを伝えようと連呼していた言葉を思い出す。
「オマンコ、オマンコが気持ちいいっ!!」
 ティルローズは高まりを極めていく。
 オーギュストはカナンでの出会いを思い出していた。じゃじゃ馬でいつも逆らっていた勝気な女が今自分の下で喘いでいる。満足感とともに愛おしさを感じた。
 二人は一体となって、至高の境地へと到達する。熱いほとばしりを体内に受け止めながら、ティルローズは恍惚の表情をした。


【オルレラン】
 少し青みを帯びた石の建物の中、赤い絨毯の上をカフカは歩く。右手側には壁があり、歴代公爵家当主の自画像、さらに彼らの黄金の甲冑が置かれている。左手側は開放され、縦溝のある円柱が等間隔に並んで、その先にはエリース湖が臨める。
 カフカの目に階段が見える。その前に、赤い絨毯を挟んで左右に3人ずつ重臣が並んでいる。そこで足を止めると、恭しく跪いた。
「カフカ、お前ほどの男でも、女一人も捉えられんか?」
「大言にもかかわらず、オルレラン公には謝罪申し上げます」
「ふむ……まぁよい」
 オルレラン公メルキオルレが玉座の上で唸る。その音には怒りの色はなく、意識は余所へ向いていた。
「しかし、これほどの危険を冒す、その目的は何か?」
 視線が重臣の一人ノアイユ子爵を指す。
「おそらく、人材の補強かと」
「人材? 使いの者でよかろう」
「姉にも知られたくない、私的な部下が必要なのかも」
「ふーむ」
 オルレラン公は長い顎鬚を撫でる。
 オルレラン公爵家は第三代サリス皇帝シャルル1世の実子を始祖とする名門貴族である。各時代で政争の中心にいた家系で、絶大な発言力を有してきた。オルレラン公メルキオルレは、頭部の半分ほどが剥げ、長い顎鬚を含めて顔全体の毛がすでに白い。年齢も六十を越えていたが、四十前後に感じられるほど若々しい。骨格逞しい体をすらりと伸ばすと、全身から威厳を発する。
「カフカ、心当たりはあるか?」
「いえ、ございません」
「ふむ、何処も大変らしいな」
 オルレラン公は意味ありげに頷く。
「ふむ、下がってよし」
「はっ」
 この男としては意外と思えるほど、カフカは恐縮した態度で頭を垂れる。そして、踵を返した。
 カフカは謁見の後、宮殿内の中庭へと向かった。
 緑色の芝生の中に、白い大理石の石畳がある。大きな木が奥に並び、その間から蒼いエリース湖が見えている。
 大きな日傘の下で、二人の女性が白いテーブルを挟んで、談笑している。少し離れた所には侍女達が並んでいる。
「え!? 公爵がそんな事を……」
 カレンがティーカップを置き、驚きの声を上げる。
「はい。そうなれば、弟の後見人になると……」
「そんな……」
 瞳を閉じて首を振る。
 そこへカフカが近寄ってくる。
「カテリーナ様、只今サイトより戻りました」
「あっ、ご苦労様です」
 白いワンピースのドレスを着たカレンは、カフカに気付いて、あわてて手を出す。
 カフカは跪いてその手に口づけをする。それから、侍女が手際良く用意した席へと座った。
「こちらは?」
「スピノザ伯爵令嬢ミカエラ様です」
 カレンに紹介されて、ミカエラが礼をする。カフカはミカエラの胸にAⅣのマークを見つける。
「ああ、お噂は伺っております。大変な才女でいらっしゃるとか」
「それはお耳汚しを」
 ミカエラは、腰の括れたグレーのジャケットに、同色のロングスカート、そして、ミルク色のブラウスにはカメオ風のブローチが装いを引き立てている。
「どうかされたのですか?」
「ええ」
 カレンは言葉を濁して、ミカエラを見た。
「実は公爵より、後添いに入れと……」
 ミカエラがはっきりと言う。
「ほぉ」
「私(わたくし)を高く評価して頂くのは嬉しいのですけど、まだやり残した事もありますし……」
「断れば支援を打ち切ると?」
「……ええ」
 今度はミカエラが困ったようにカレンを見る。
「それは大変でしょう。今オルレランに手を引かれては、エスピノサはナバール男爵の手に落ちる」
「ええ、最近隣国のロシュジャクラン伯爵家が滅ばされました……」
 ミカエラの表情が暗く曇る。
「本当に。敵はカリハバールとだと言うのに。公爵も公爵です。何を考えておられるのか……。40歳は離れているというのに……」
 カレンは溜め息混じりに言った。
「本来ならば一致協力して、同盟軍を作るべき所を……嫌な時代になりました」
「カフカ殿、何か知恵はありませんか?」
「では、その同盟軍の盟主に弟君を立てられては?」
 カフカは即座に、ミカエラに提案する。それを聞いて、ミカエラの眉間に怪訝そうな影が差す。
「サイトで面白い人物と知り合いました。その者を雇ってみては?」
「それは?」
「スレード卿です」
「確か、ウェーデリアの方ですよね?」
「はい」
「スレード卿は面白い男と懇意にしておられる。その男と私が組めば、恐れるものはありますまい」
 カフカは澄まして言った後、紅茶を啜った。


【カナン半島、名もなき入り江】
 ベッドの上に朝陽が落ちて、凛とした美しい顔が白く染める。眩い光の中、ティルローズは長い睫毛を数度揺らして、辛そうに目を覚ます。
「うぅ……う、何時だろう」
 頭がぼんやりとして記憶が上手く繋がらない。頭を押さえながら、ふらふらと歩いて、浴室へと向かった。
 オーギュストが狭い廊下を駆け抜けて、浴室のドアを開けた。
「おはよう、ティル。朝食できたよ」
「きゃぁ~あ!!」
 ティルローズは絶叫すると、バスタオルで前を隠す。
「ちょっと、スケベ!」
「だから、朝食」
「出てってよ!」
 ティルローズはお湯を投げかけて、オーギュストは慌ててドアを閉める。
「早くしろよ」

 10分ほどして、ティルローズが甲板に上がってくると、折り畳み式のテーブルの上に、サラダやパンなどが用意されていた。
「この蜂蜜、森の中に入って取って来たんだ」
 オーギュストは椅子に座り、小さな壷を指差す。
「そう。ごくろうさま」
 男物の大きなシャツだけを羽織って、ティルローズはまだ濡れた髪を後ろにさっと払った。そして、オーギュストの膝の上に腰を下ろす。
「なんか、船の上だと別人みたいに、楽しそうよね?」
「船に乗っている時だけは、素の自分に戻れるような気がするからかな……。ほら、船の知識だけはオーディンの力は不必要だろ」
 オーギュストは言う時に、微かに切なげに瞳を曇らせる。だが、次の瞬間には笑って、軽く口づけをした。
 ティルローズは嬉しそうに、そのキスを受け入れる。だが、唇が離れた時、暗く目を伏せる。
「ねえ、これからどうなるのかな、私達?」
「俺たちはこれからもずっと一緒だろ。俺たち二人が組めば不可能はない。カリハバールを撃破し、影で暗躍する魔術団を滅ぼす。そして、君の、君のためだけの国を作ろう。そこで安らかに暮らせばいい」
「あたしだけ、幸せでいいのかな?」
「ティルにはその資格がある」
「どうして分かるの?」
「もしかしたら、君はエリースの生まれ変わりなのかもしれない」
「そんな……でも恐いわ……。あなたなら世界中を幸せにする事も、世界を滅ぼす事もできるでしょ」
「それも全て君のためだ」
「でも、お姉さまは許さないわ……」
「でも、マリーには恋人が帰ってきたのだろう。それで君はここに来た」
「でも、お姉さまは、意識なしに、人の物まで自分の物だと思っているの。いえ、世界中が自分の物だと信じている。そして、絶対に自分の物を人に分け与えたりしない……分かるのあたし……ずっと一緒だったから」
「大丈夫だよ」
 震えるティルローズをオーギュストは優しく抱き締める。
「マリーにはナントがある。もし窮屈なら、君の国に招待すればいい」
「え?」
「俺達はカリハバールを滅ぼしに行くんだろう?」
「……ええ」


【ナント】
 宮殿内の広場を囲む回廊では、二人の聖騎士と三人のアーカス騎士とで、険悪な言い争いを続けていた。
「そうではない!」
「しかし!」
 そこへ黒い革で統一された男が通りかかる。ジャケット、パンツ、ブーツ、サングラス、そして、タンクトップのシャツには髑髏が描かれていた。
「ドケ!」
 低く、そして、凍りつくような冷たい声だった。
 聖騎士の一人が、サングラスの中の顔を見て、怯えたように飛び下がり道を開ける。
 一方、アーカス騎士は「不愉快だ」と睨みつける。そして、無謀にもその前に立ち塞がった。
「何だ貴様は? 我々は騎士だぞ。ここはお前のような……」
 聖騎士が「止せ」と小声で言ったが、すでに遅かった。黒一色の男、オーギュストは目で下を指す。
 アーカス騎士が、「何だ」と不遜な態度で、面倒臭そうに自分の足元を見る。
「なんじゃこりゃ!」
 一度何事もなく視線を戻したが、すぐに見返して、仰天した声を張り上げた。
 アーカス騎士の足が、下から石化し始めていた。
「ナルセスは?」
「か、会議中です」
「案内しろ」
「はっ」
 聖騎士が背筋を伸ばして答えた。
「ちょ……ちょっと待てよ……」
 すでに腰付近まで石化したアーカス騎士が、弱々しい声でオーギュストを呼ぶ。
「そんな面するな。それでは後世、“泣き石像”と呼ばれる事になるぞ」
 オーギュストは残酷に笑うと、宮殿の奥へと歩き出す。背中の方で、泣き声がしたような気がしたが、もう一切気にしていない。
 途中、螺旋階段を昇っていくと、大きな門の前に門番用の小屋があった。その中では、聖騎士の副長ミッチェルが、テーブルに足を上げてカード遊びをしていた。
「結局よ、あのディアンって奴もよ。あの生意気で、くそ憎たらしい、腐れガキがいないとよ――」
 テーブルの向こう側に座る聖騎士たちの手から、カードが滑り落ちて、目が泳ぐように震える。
「……もしかして後ろにいる訳……」
 仲間の反応に、ミッチェルはある恐ろしい想像をしてしまう。そして、本能的にそれを否定しようとした。
「……そんな事――」
「あるんだな、これが」
 オーギュストがミッチェルの頭を鷲掴みにすると、そっと耳元でささやいた。
「ナルセス義勇軍の悪口なら構わんが、俺の悪口だけは許せん」
「……い、いや、これは、その……」
「いい事を教えてやる。俺がこの手を離したら、お前はもう二度と勃起しない。分かった?」
 オーギュストは天使のような笑顔でささやく。
「そ、そんなぁ、ご冗談を」
 恐怖で顔を強張らせながら、ミッチェルは必死に笑ってみせた。
「俺が冗談を言うタイプだと思ってたんだ」
 ミッチェルは、うんうん、と何度も頷く。
「それは心外だ。これから気をつける事にしよう」
 急に険しい表情になると、オーギュストは木製の頑丈なテーブルに、ミッチェルの額をぶつけて、めり込ませる。そして、他の聖騎士たちを眺めた。
「入るぞ」
 どうぞ、どうぞ、と聖騎士たちは震える声を搾り出した。

 元来エリース湖に浮かぶ標高150mほどの円錐形の島が、河口にできた三角州の広がりによって陸と繋がり、その砂の上にナントの街が築かれた。川と湖で守られたナントの街は、それだけで天然の要害である。
 そこに元島だった小山と城下町を、堀を掘って分離し、山麓に館や行政府を並べた。そして、山頂部には堅牢な城砦を建設して、有事に備えた。これがコバルト宮殿である。
 外敵には、城下町を川で守り、次に山麓の堀で守り、最後は山頂で戦う、と明確な戦略の元に築かれた名城であろう。
 オーギュストは山麓の本丸本館へと向かっていた。
 本館の会議室では、長いテーブルを挟んで、サリスの重臣とナントの諸侯が、出口の見えない議論を繰り返していた。
「ナントにはナントの流儀ある」
 かつてフランコの腹心だった、ゴンザレスが発言する。
「それでは、ここまで戦ってきたサリスの聖騎士が納得しない」
 白亜聖騎士団長のクレーザーが答えた。
「クレーザー殿は勘違いしておられる。我々は負けたのではない。我々はアベール様に従って、ポーゼンのサリスと合併したのだ。その辺を誤解してもらいたくない」
 ルイスが嘲笑したような眼つきで言った。
 左側一番目二番目に座るゴンザレストとルイス、それに三番目のリポルと四番目のトレスを加えた4人は、“ナントの四本柱”と呼ばれている。フランコ亡き後、ガルシア、エルナンデスを通じて、カルロス2世に反して、サリスへの帰順を取り決めた中心的人物達だった。
 この4人に続いて、ガルシア、エルナンデスのアーカス諸侯が左列に列なっている。
 一方、右側には、蒼鷹騎士ローゼンヴェルト、同じ蒼鷹騎士ファンダイク、それから、聖騎士のクレーザーなどが座っていた。
 上座には進行役として、右にペルレス、左には蒼鷹騎士団長のピカードが座っている。二人はアベールの指示で、同格として扱われていた。今やサリス軍の内部は、アベール派に牛耳られていた。
 ゴンザレスは勢いに乗って、ルイスに続けた。
「その通りだ。アベール様の元、サリス・サイア統一政府が樹立され、我々アーカス、サイア、サリスの旧臣たちが力を合わせる。これはすべに君命として――」
 その時、人の背丈の2倍ほどはある大きな扉が、勢いよく開いた。そして、黒いオーギュストが、颯爽と現れる。
 その瞬間、場が水を打ったように静まり返った。その中、オーギュストの踵の音が不気味にこだまする。
 オーギュストは無言のまま真っ直ぐに歩き、右側の列、上座から2番目の席の後ろで立ち止まった。
「何をする?」
 座っている蒼鷹騎士ファンダイクの肩を掴むと、圧倒的な力で後ろに引き倒す。ファンダイクは石の床を2回転して、壁でぶつかって止まった。
「失礼した。血迷った奴が俺の席を取っていた。うむ?」
 横のローゼンヴェルトを見て、オーギュストはきょとんとする。
「お前は……ナルセスじゃないな?」
「ああ」
 ローゼンヴェルトが頷いたとき、オーギュストの右拳が、やや斜め下から伸び、ローゼンヴェルトの顎を砕いて、殴り飛ばす。
「何処だ、ナルセス?」
「ああ」
 後方の席で、ナルセスが立ち上がった。
「お前がうろうろしているから、変なのがお前の席に座っていたぞ。早くこっち来いよ」
「おお、すまん、すまん。うっかりしてた」
 ナルセスが頭を掻きながら、やや緊張気味に空いた席に移る。
「全くしょうがないなぁ」
 オーギュストは業とらしく、軽やかに笑った。
「じゃ、議論を進めろよ。ペルレス」
「ちょっと待った!!」
 憤ったルイスが立ち上がる。
「貴様、これは神聖な議論の場だぞ。バカな真似は止めろ。早く摘み出せ!!」
 怒鳴るルイスを後目に、オーギュストは前にあったコップから水を掌に落とす。と、その水はまるで生き物のように蠢き出して、オーギュストの人差し指がルイスを指すと、そこへ真っ直ぐに伸びていく。
「ひぃ」
 水は細い槍となって、その先端がルイスの眉間の1ミリ手前で制止する。
「ペルレスは発言の機会を与えていない。無礼はこの俺が許さない」
 な、とオーギュストは屈託ない笑顔をペルレスに向けた。
「ふざけるな!!」
 横にいた恰幅のいいリポルが、テーブルの上に飛び乗る。
「下品な男だ」
 オーギュストは素早く水の槍を操ると、リポルの額を突き刺す。リポルは完全に動きを止めて、その後、激しく痙攣した。
「両者とも止めろ! 今は会議中である」
 律儀そうな声で、ピカードが叫ぶ。
 それに対して、オーギュストは素直に水の槍が抜く。と、リポルは一旦テーブルの上に倒れたが、すぐに四つん這いになって、ワンワンと吼え始めた。
「これは!?」
 ピカードが狼狽した声を上げて、思わず持っていたペンを落とす。一方、ナルセスとペルレスはすぐに視線を合わせ、呆れた顔で「仕方がない」と首を振り合った。
「こいつは面白い。俺はこいつの潜在願望を表に出しただけなのに、この下品な男は、犬に成りたかったらしい」
 オーギュストは腹を抱えて笑う。
「すぐに止めたまえ! 何度も言っているが、全く、これが神聖な会議かね」
 ピカードはテーブルを両拳で叩き、目を閉じて首を激しく振った。
 と、首筋に冷たいものを感じて、動きを止める。
「これくらいの動きについて来られないと、俺の相手はできないぞ」
 先程まで、躾の悪い子供のように笑っていたオーギュストが、今は背後に立ち、鋭い爪を首に当てている。そして、地獄の底から聞こえるような、ぞっとする声で、ささやいている。
――動けん……
 背後からじりじりと迫る圧倒的な殺気。ピカードは身動き一つできない。
 不意にオーギュストはピカードから離れて、上座の階段を昇って、玉座の前を左右にゆっくりと歩く。
「我々は同士であって主従ではない。全てローズマリー様をお助ける為にここに集った。これは、ここに居る者達から一兵卒に至るまで想いは同じ。この想いに上下は不要。それはアベールと言う男も同じである。例え彼が元サイアの王太孫だとしても、だ」
 一言一言、はっきりと区切って言う。
「もし彼が我々に参加したいのなら、まず槍か剣を持って、その志を証明して見せろ。もしサイアの王太孫だからと言って特権の望むのなら、我々に復活したサイア王国を見せてからにしろ。せめてこのくらいの実績を示せ。青い古鳥たちよ」
 オーギュストは不遜に言い放つ。
 これにアベール派の面々は肝をつぶし、一方聖騎士達は揃って溜飲を下げた。
「取り敢えず、今日は解散だな。宜しいかなピカード殿?」
「ああ、これでは続けられない」
 気分が悪そうに、ピカードが唸る。
 では、とオーギュストは扉へと歩き出す。それに、ナルセス派の面々が意気揚々と続いた。
「あれは何者です?」
 ピカードはペルレスを睨む。
「オーギュスト殿だ」
 ペルレスは澄まして答えた。
「サリスの奇蹟の源。手を出すと、そこの犬のようになるぞ」
 ペルレスが笑いを零すと、残っていた聖騎士や、ポーゼン以来の諸侯も失笑する。


【コバルト宮殿本館】
 コバルト宮殿の本館は、改築と増築を繰り返した建物で、外観は新旧の様式が入り混じり複雑な表情だが、内部はさらに迷路のように混乱している。廊下の角一つ、ドア一つ間違うだけで、元に戻れなくなってしまう。
「ふぅー」
 ローズマリーは溜め息を落とした。
 100強ある部屋の中で、最も豪華と説明されたものを自室とした。だが、飾られた静物画は厚く単調に塗りつぶしてあるだけで、作家の感性を受け取る事ができない。また、窓からは、真新しい塔の壁だけしか見えず、日当たりも悪い。そして何より、女官に注文を出しても、迷路のせいで仕事が遅れる事が多い。
「ここより、ポーゼンの方がましだったわ……」
「でも、ここの方が、物が豊富で、好みの物にも困らないよ」
 アベールは紅茶の香を楽しんで、上機嫌に目を細める。
「そうね」
 愛する恋人の声を聞いて、昔の平穏だった日々を取り返したように思えて、ローズマリーは高貴な笑みをたたえる。
 だが、会話はどこか他人行儀で、すぐに途切れがちになる。二人の間には、かつては決してなかった気まずい雰囲気が流れていた。
――笑い方が少し違うみたい……やっぱり私(わたくし)のせい……?
 ローズマリーは意味もなく、窓へ視線を移す。
 その横顔を見て、アベールはゾクッとした。
 ローズマリーの着ている白いドレスは、胸もとが大きく開いて、大人っぽい色香を漂わせている。胸も腰も以前よりも丸みを増しているようだし、どこか幼さの残っていた美貌も、今では艶っぽさが滲み出ているようだった。
――やはり、男を知ったせいか……
 アベールの目の奥で、異様な色の炎が揺らめく。

 再会を果たした夜、二人は愛し合った。
 下着姿になってベッドに仰向けになると、ローズマリーは陶磁器のような頬を朱に染めている。
「恥ずかしいんだね」
「いや」
 レースで透けるブラジャーと小さなショーツ、そして、レッグガーターはみな赤紫色で統一させ、煽情的な姿態である。
 夢にまだ見た、愛する女性の美しい裸体を前に、アベールは燃え上がった。細い首筋にキスとして、胸へ唇を這わせていく。同時に、やや小ぶりの美乳を手で揉み解し、そして、硬く尖った乳首に摘む。
「あ…ああ……」
 ローズマリーは堪え切れず、甘い吐息を途切れ途切れに出てしまう。
 アベールはその声を聞いて、優しくし愛撫しなければと思いつつも、ついつい力が入ってしまう。
「い、痛いわ」
 ローズマリーの肌に爪が食い込み、苦痛に表情を歪める。
「ご、ごめん」
――マリーは遊び馴れた貴婦人達は違うんだ……落ち着け!
 アベールは昂ぶる想いを抑え込んで、壊れやすいガラス細工を扱うように、全身を舐め尽くした。そして、その肌理細[きめこま]やかな白絹に、アベールは陶酔し切っていく。
「感じやすいんだね」
 股間に溢れる蜜の量を見て、アベールは生唾を飲む。そして、少しでも早く入れたいと焦っていく。
「待って! まだ…まだなの……」
「大丈夫、僕に任せて」
 アベールは、にやっと卑猥な笑みを浮かべると、ローズマリーの細く長い足を大きく広げる。
「ま、まだ、ダメよ……ン」
 ローズマリーの声を無視して、もうすっかり固くなったペニスを秘唇に押し当てて一気に貫いた。
「ダメだったら……あっ、ああん」
 ローズマリーは悩ましげに、白い喉を仰け反らせる。
「どうだマリー。俺たちついに一体に成れたよ」
 甘い声で囁き、アベールは細い身体を居れそうなほど強く抱き締めて、ゆっくりとペニスを抜き差しし始める。
「これでマリーは僕のものだ。僕の女だ」
 言葉の最後に「これでサリスも俺の物だ」と心で続けた。そして、舞い上がる感情とともに、腰の動きを速めていく。
「あっ、あああん」
 恍惚の表情を浮かべて、ローズマリーは淫らに囀る。下半身では、ぐちゅ、ぐちゅ、湿った淫靡な音が鳴っていた。
「あん、あ、あ、あ……」
 その音を聞きながら、ローズマリーは腰をくねらせて、秘肉を締め付ける。
「うぐう……すごよ、マリー。こんないいの初めてだ……」
 その包み込む感触と艶のある声で、アベールの情感は最高潮へと昇っていく。だが、急に表情が強張った。
――そんな! じゃ、もう……
 頭をハンマーで殴られたような衝撃が、アベールを襲う。カァーッと頭に血が昇って、心を錐のようなもので抉られたような気分である。
――くそー、どんな奴に奪われたのだ!!
 口惜しさに気が狂いそうだった。
 だが、今腹の下で喘ぐ女体は、妖しいまでに見事に開花していた。特にあの部分の緊縮力は、アベールをすっかり陶酔させて、色欲に溺れさせていく。
「うっ、僕、もう……」
「あん、まだっ」
 蕩けた瞳で、アベールに訴える。
「出すぞっ! うっ……」
「ねえ、いやっ、いやよ。まだよ、お願い……」
 悩ましげにローズマリーはねだってくる。
「マリー!!」
 だが、アベールの限界は近く、ローズマリーの名を叫ぶと、その長い手足を振り解いた。そして、ペニスを引き抜くと白い腹の上に精を放つ。
――くそっ! くそーっ!!
 アベールは荒い息を吐き出しながら、ベッドに身を沈める。それから、ローズマリーとは反対の方へ体を傾けてしまう。
 そして、二人は背中を向け合ったまま朝を迎えた。

――マリーにも色々あったのだろう。何せ乱世だ。もしかしたら強姦されたのかもしれん。腹立たしいが……だが、こんな良い女を手放す訳にはいかん。相手の男は必ず見つけ出して、殺してやる!
 二人が複雑な感情を押し殺して、平和そうに見詰め合っていると、ピカードが入室してくる。
「おお、ピカード。ご苦労だったな」
「はい」
 ピカードはアベールの前に跪く。
「それで、処分はどうなった?」
「それが、会議は中断しました」
「うぬ?」
 優雅なアベールの眉が怪訝そうに歪むと、ティーカップを乱暴に置いた。
「急な侵入者があり、それで会議が混乱してしまい……」
「ピカード、サイア人らしからぬ不手際だな」
「申し訳ありません」
 ピカードは深々と頭を下げた。
――ギュスだわ……帰って来たのね……
 その時、ローズマリーの手元が狂い、紅茶を零してしまう。そして、失礼と席を立った。ローズマリーの背を見送って、アベールは声を低く重くした。
「それでリューフは?」
「ナルセス派の連中に開放されました」
 アベールは額に青筋を張らせ、目尻を吊り上げた。
「何が起こった?」
 ピカードは会議の一部始終を説明する。それを聞き終えて、アベールは凄みを加えた声でピカードに迫った。
「それで奴等は?」
「今頃、城下の……を総揚げしています」
「くそ、これではシュナイダー殿の書いたシナリオと違うではないか!」
 アベールはティーカップを壁に投げつけると、片頬を痙攣させる。


 洗面室に、ローズマリーは逃げるように駆け込む。
――私(わたくし)……どうすれば……
 蛇口を捻り、水を全開にする。水が渦を巻いて流れ落ちるのを、蒼褪めた表情で見詰めていた。オーギュストが帰ってくる事は、分かり切った事だった。しかし、アベールと運命の再会をして以来、どこか気分はセリアにいた頃に戻っていた。カナン半島やテードでの事が、まるで夢のようにさえ思えている。
 だが、現実を付き付けるように、犯した罪を咎めるように、オーギュストは帰ってきた。ローズマリーは憂いをたたえた瞳を閉じて、長い睫毛を震わせる。
 と、肩を叩かれた。
「よ、久しぶり」
 ローズマリーの身体に、戦慄が走った。恐る恐る瞳を開くと、目の前の鏡に、そこにはオーギュストが笑顔で立っていた。
「随分探したよ」
 オーギュストは、片手を挙げて気さくに挨拶する。
 ローズマリーの表情が凍りついた。何か返事をしようと思ったが、口がパクパクと動くだけで、声がどうしても出ない。
――不自然にしてはいけない……
 動揺を必死に隠しながら、必要以上の歩数を使って、ぎこちなくオーギュストの方へ身体を向けた。
「今日、戻ってきたよ」
 オーギュストはローズマリーの頬にキスをした。
「ええ、嬉しいわ……」
 よくやく引きつった声が出た。
「人がいるみたいだね。声が聞こえるよ」
 オーギュストはドアの方を見て言った。
「こっちに」
 とにかく、アベールから離れなければならない、とローズマリーは奥の個室へと手を引っ張っていく。
――彼には知られてはいけない。あんな優しい人を傷付けられないわ……
 背中を刺すオーギュストの熱い視線。それを意識すると、罪悪感がこみ上げてくる。
「あ……やめて……」
 個室に入って、ローズマリーは振り返ろうとするが、それよりも早く、オーギュストが背中から抱きつく。
「そう澄ましていると、ベッドの上の姿が嘘のようだ」
 オーギュストの言葉に、ローズマリーは耳まで真っ赤になる。今までのオーギュストとの痴態が、走馬灯のように甦る。清楚で清純な筈の自分が、どうしてこうまで劣情に狂ったのだろうか、ローズマリーは後悔の念に胸を痛める。
「会いたかったよ」
 オーギュストは白い首に吸い付き、服の上から尻を撫で回す。それを、ローズマリーは身をよじって振り解こうとする。
「今はダメ、人が来るわ」
 オーギュストは哀願するローズマリーを無視して、スカートの中に手を入れると、下着の上から秘唇を弄る。
「ああ……」
 すぐにショーツが、じゅっ、と濡れてしまう。
「ダメよ……」
 ローズマリーは沸き起こる淫靡な疼きに焦りを感じながら、オーギュストの手を抑えようとする。
 だが、オーギュストは一切構わず、レースの施されたショーツの縁から、指を侵入された。
「ああ、うう……」
 ひんやりとした指に秘裂をかき回されると、ローズマリーの股間に簡単に快楽の火が点いた。
「あ、あ、あぅん、ん」
 ローズマリーの膝がわなわなと震えて、崩れるように前の壁に手をつく。自然と、尻をオーギュストに突き出す格好となった。
「ああん、あん」
 オーギュストはスカートを捲り上げて、白いシルクのショーツを一気に膝まで擦り下ろす。白桃のような尻が、オーギュストの眼下に晒され、谷間の秘唇や菊座が丸見えとなった。その割れ目には、すでにたっぷりと蜜が溢れて、卑猥に光っている。
「嫌がっていた割には、凄い濡れ方だ」
「ああ……ひどい……」
 言葉で嬲られると、甘美な衝動が頭を駆け巡り、ぐらりと理性を揺れ崩していく。そして、果肉が熟するように秘裂が熱く蒸れて、ひとりでに腰が蠢いてしまった。
「ひ……ッ」
 今にも溶解しそうな秘唇に、オーギュストの指が食い込んでいく。ローズマリーはビクンと背筋を反らして、悲痛な呻きを張り上げた。その自分の声に驚き、あわてて手で口を塞ぐ。
「あっ、あっ、あっ……」
 ぐちゅ、くちゃ、と淫靡な水音とローズマリーの甘い喘ぎが、狭い個室にこだまする。膣穴の粘膜はねっとりと溶け出し、熱い波動が秘部から全身へと広がっていく。
――狂っちゃう……また…でも……
 再び快楽に我を忘れてしまいそうで、ローズマリーは心の底から震え上がった。言葉では言い尽くせぬ罪悪感に、ローズマリーは怯える。だが一方で、倒錯感が背筋をせり上がって、甘い悦楽に身悶え、脳までも痺れさせていくのも真実だった。
――負けてはいけない……彼がそこにいるのよ……これ以上彼を傷付ける訳には……
 気丈にも、歯をぐっと噛み締めて、こぼれ出す甘い吐息を我慢して堪えようとする。無駄だと思いつつも、ローズマリーは女性としての矜持を必死に守ろうとする。だが、皮肉にも、それがかえって、官能を蓄積させて決壊時の盛り上がりを激化させてしまった。
「どうした?」
 オーギュストが嘲るように言って、クリトリスを小刻みに刺激する。
「アアッ……ウ、ウウゥゥ……」
 ローズマリーの肉がブルッと痙攣する。
 アベールがいる部屋に聞こえるほど、叫びたい、泣き喚きたい、この肉の疼きを口に出したかった。だが、最期の理性がそれを押し留める。しかし、その理性の影から、別の感情が浮かび上がってくる。
 女体の渇き。
 もう一度、肉壷の奥深くまで、貫いて欲しい。グチャグチャに攪拌されたい。
――犯して……
 ローズマリーは期待に濡れた瞳を、無意識に、オーギュストに向けていた。
 だが、途端に、オーギュストはローズマリーから離れる。
「じ、焦らさないで……」
「アベールって、マリーの恋人なんだろ?」
「え!?」
 ローズマリーは亀のように手足が縮む想いだった。
「マリー、俺とこんな事していいのかい? これって不倫だろ?」
「ああ……」
 切なげな泣き声が洩れる。
「俺とアベールどっちがいいんだ?」
「そんなぁ……ことわからないわ……」
「じゃ、少し分かりやすくしょうかな」
 オーギュストは好色に笑うと、ペニスで秘唇の上をなぞる。
「ふぁあっ、あーーん!」
 狂おしい程の欲情だった。灼熱の官能が身も心の焼き尽くしていく。
「もうダメ、我慢できないのぉ!!」
 ローズマリーは夢中で腰をゆすった。
「じゃ、答えを聞かせて?」
「あなたよ。今はギュスの事しか考えられないわ……」
 オーギュストは失笑する。
「でも、あの人には秘密にして、傷付けたくないの……」
「それがマリーの出した答えなら、俺は構わないよ。アベールはそっとしておく事にしようかな」
「ほ、本当に……」
「ああ」
 と、オーギュストはゆっくりペニスを埋め込んでいく。
「あっ、ああっ!」
 ペニスを熱く熟した膣穴が咥え込む。その瞬間、全身をブルブルッと震わせた。結合部分から待ち焦がれた快楽が全神経を独占して駆け巡っていく。
「うッ!! あっ、あっ、ああっ!」
――ああ……だめ、ギュスなしじゃ、生きていけない。もう何も関係ないわ。この快感はあたしだけのものよ!
「気持ちイイーッ! ああ、ああん、はぁっ、あっ、ああああ!!」
 ローズマリーは堰を切ったように、顔からはおよそ想像できない、獣のような喘ぎ声を連発する。そして、腰を貪欲に振り続けた。すでに自分の快楽を生み出すポイントを覚え、そこにペニスを擦り付けていく。自分が掛け値なしの淫乱である事を理解し始めていた。
 オーギュストは胸を揉み解し、その柔らかな感触を満喫する。そして、気合を入れて、一、二度、ダイナミックに挿入する。
「う、うっ、あああぁぁぁ!!」
 あの清楚な唇は、今やだらしなく開き、涎がたらたらと流れ落ちる。
「あっ、あっ、あっ、ああんっ!! もっと…もっと激しくおまんこ突いてぇっ!!」
 そして、たちまちエクスタシーへと達していった。


 情事の後、ローズマリーは何もなかったように普段の顔で部屋に戻る。と、ピカードは消え、代わりにティルローズがいた。
「遅かったね」
「私(わたくし)、政治にはあまり関わりたくないから……」
 前髪を弄りながら、自分の席へ向かう。
「ティルちゃんも、ポーゼンでの仕事が片付いて、やっと来てくれたよ」
「ええ」
 ローズマリーは生返事をして、二人にやや背を向けて座る。
「……」
 一方、ティルローズも姉の顔を直視できず、不自然にならない程度にやや横を向いていた。
 3人の会話はそれっきり途切れて、手持ち無沙汰に、一斉に紅茶を口に運ぶ。
 そこへ、刀根留理子に案内されて、オーギュストが現れた。
「姉妹ともお揃いか」
 オーギュストは然も当然に、3人と同じテーブルに付く。
「ごきげんよう、ギュス……」
「お久しぶりです……」
 姉妹はほど同時に、ややぎこちなく挨拶をした。
「只今戻りました。で、こちらは?」
 オーギュストは足を組んで、親しげに話し掛ける。
「サイアの王太孫アベール様です」
 ローズマリーが紹介をした。
「ああ、お噂はいろいろと。ディーンです」
 オーギュストは気さくに手を伸ばして、握手を求める。
 アベールはむっとした顔でそれを無視した。
「大変でしたね。まぁ、狭苦しい所ですが、ゆっくり寛いで行かれるといい」
 オーギュストは悠然と言って、何事もなかったように手を引っ込めた。
「ディーン殿は一秘書でありながら、無礼が過ぎるのでは?」
「気分を害されたのなら、謝りましょう」
 軽く言って、一気に紅茶を飲み干す。それがまたアベールの癇に障った。
「ギュス……」
 それを察して、ローズマリーがたしなめる。
「また失礼した。中原の作法に疎いもので」
 オーギュストは素直にアベールに頭を下げる。それからティーカップを持ち、刀根にお代わりを催促する。
「あっ……」
 ローズマリーとティルローズは、同時にテーブルの中央に置かれた砂糖の入ったガラス瓶に手を伸ばしていた。
「ティル、どうしたの……」
「お姉様こそ……」
 美姉妹はそわそわと手を戻した。
――何だこの流れは!?
 アベールは訳も分からず、ただその場空気に息苦しさを感じていた。
「ディーン殿は会議で私に実績を示せと言ったそうだな」
 その苦い感情を吐き出すように、叩きつけるような口調で言う。
「ええ」
「私はカリハバールの最前線で戦ってきた。時に蒼鷹騎士団を取り纏め、時に大運河への奇襲等を行った。これほど実績があろうか、私を愚弄するのは止めよ」
 アベールの怒気に、オーギュストは涼しい顔をしたまま、あっさりと話を変えてしまった。
「しばらく、セレーネ半島に行こうと思います」
「どうして、やっと帰ってきたばかりなのに」
 咄嗟にローズマリーは身を乗り出していた。
――怒っているの……それとも……
 あわててアベールを見る。
――アベールから距離を置いてくれるのね……
 オーギュストの優しさだと思い、ふっと息を吐いて口もと弛めた。
「ここにはアベール殿もいらっしゃるし、アベール殿は優秀な部下も率いておられる。ナントの内政も、サンクトアークの攻略も容易いでしょう」
 オーギュストは挑戦的にアベールを見遣る。
「当然だ」
 それに対して、アベールは自信たっぷり相槌を打った。
「だったら、この期間を利用して、セレーネ半島に親サリス勢力を築こうと思います」
 オーギュストはローズマリーを見詰めていた瞳を、一度閉じる。それから徐に開いて、次にティルローズを見詰めた。
「ですから、ティルローズ様をお借りしたい」
 言って、ティルローズの手の甲に手を添える。それを受けて、ティルローズは掌を返して、狎れ合うように指と指を絡めて、しっかりと握り締める。
――まさか!
 この時、ローズマリーは愕然として、夢から覚めたように目を剥く。そして、瞬時に加害者の立場から被害者へと、自分の立ち位置を置き換えた。
「ダメよ!」
「何故です」
「ティルがいないと、私(わたくし)、何もできないもの……」
 考えるよりも先に口が動いていた。
「最近も、どれほど不安だったか……あなたもそうでしょ?」
「……え、ええ」
 ティルローズは、心臓が止まるのでは、と思うほど胸を抉られた。その動揺を隠そうと、曖昧に頷く。
 3人の間に、際どい緊張が張り詰める。
 その時、アベールが、ぼそり、と呟いた。
「……僕を無視するな……」


【ナント港、夜】
「やっぱり、あたし行けない……」
「どうして?」
 薄暗い港で、オーギュストとティルローズは向かい合っていた。
「お姉さまとは離れられないから……」
「だからどうして?」
 ティルローズがオーギュストの手を振り解く。
「お父様はそれを一番恐れていた。姉妹で争う事を危惧していた。だから、あたし……」
「争いになんてならない」
「ごめんなさい……」
 オーギュストは優しく誓ったが、ティルローズは一歩二歩と後退りして、それから一目散に走り去っていった。
「なぜだ……」
 光のない桟橋の上で、星が燦々と輝き、波の音だけが静かに繰り返されている。そして、オーギュストは独りたたずんでいた。

 カルボナーラ号に、次々と男達が乗り込んでいく。最初がリューフ、次にナルセス、パスカル、ルグランジェ、マックス、カステラルなどと続く。
「よ、ギュス。どうした?」
 荷物を甲板に置きながら、リューフが、船縁に仰向けに寝ているオーギュストに声をかける。
「星を見ているだけだ」
「女にでも振られたか?」
 ニヤリとナルセスが笑った。
「すぐにまた会うことになるさ。多少関係を変えてね」
 オーギュストはさっと起き上がって、笑う同志達を睨み上げる。そんなオーギュストの肩を、リューフは軽く叩いた。
「男をやっていれば、女心の読み違いなどよくある事だ」
「リューフ、すまない。読みが少しずれた」
 オーギュストはその手を肩を振って払い、それから片膝を両手で抱きながら、話題をリューフが軟禁された事に変えて淡々と謝罪する。
「全くだ。口ほどにもない」
 リューフは口の端を少し上げて、鼻で笑った。
「そうだな。結局サンチェスは斬る必要はなかったな」
 二人の間に、マックスがひょっこり顔を出して言った。
「……」
 瞬間、リューフは仏頂面をして黙り込むと、置いたばかりの荷物を担いで、船内へと下りていく。
「俺、何か悪い事言った?」
「いや、いいんだ。お前の言う通りだから」
 ナルセスが言って、オーギュストを見る。
「誰もアベールの登場なんて予想できないさ。だが、仕組んだ奴はなかなかの目利きだな。強敵になるかもしれんぞ」
 オーギュストはまた寝転んで、夏の星座を指で模る。
「だが、悪い事ばかりじゃない。結果的に、サリスだけじゃなく、サイアまで封じ込めたのだから」
 その時、パスカルが会話に加わってきた。
「これでサリスとサイアの正当な継承者は、ナントに引っ越した訳だ。これで広大な中原は誰の物でもない」
「と言う事は?」
 マックスが笑いを噛み締めながら返した。
「俺達の物にしても良い、と言う事だ」
 ナルセスは不敵に言い放つ。
 と、甲板にいた男達が、一斉に互いの手を叩き合って喜び合った。
「その前にやる事があるだろ?」
 冷めた声でオーギュストが水をさす。
「まず、スピノザ伯爵家を乗っ取って軍資金を稼ぎ、オルレラン辺りに兵を借りて、カリハバールを打っ潰すんだろ? 分かってるよ」
 マックスがおどけたように言って、オーギュストを思わず無造作に押してしまう。「あ、マズイ」と思ったが、オーギュストは絶妙なバランスで、水面に落ちるのを防いで見せた。「さすが」とまた押しそうになったが、今度はオーギュストがその腕を掴んで、マックスに関節技をきめる。
「分かってんなら、お前はさっさと男爵の相手をしていろ!」
 オーギュストは怒りに満ちた声で言って、マックスを離す。
「うっぐぃ、わ、分かりましたよ」
 マックスは体の痛みに苦しみながら、背を向けたオーギュストに舌を出した。
「でも、あのオヤジちょっと変わってんだよな。俺は風呂に入ろうと服を脱いでいると、鏡越しにこっち見てんだよな……」
「気のせいだ。普通だ。普通」
 オーギュストは追い払うように言って、また同じ場所で同じ格好で寝転ぶ。
 ナルセスはマックスの背中を見送りながら、「むごい」と呟く。そして、真剣な表情をすると、低く押さえた声で言った。
「だが……ここまでは上手くいったが、そうそう思惑通りにいくのか?」
「うん?」
「アベール達があっさりとサンクトアークを抜くかもしれんぞ」
 ナルセスの言葉に、オーギュストは「心配性だな」と笑った。
「これを仕掛けた奴は、そんな下手な手を打たない。問題は何処まで読み切っているかだな」
 オーギュストは乾いた笑い声を上げた。


【サンクトアーク】
 アーカスの首都サンクトアークの歴史は浅い。オールドアーカスの太守カルロス・デ・オルテガが大小30の都市国家をまとめてアーカス都市国家連合国を建国した時、この地に新都市を建設した。オールドアーカスは防衛には優れていたが、手狭であり、交通に不便だった。
 一方、サンクトアークは、アーカス平野に位置する。この地は防御には劣るが、広大な平地の要に位置し、湖にも面して物資の物流に優れている。カルロス1世は湿地を埋め立て、水路を張り巡らせ、湖辺に近代的な新都市を誕生させた。さらに、巨大な港と街道を整備して、新国家の首都として機能を充実させていった。
 だが今、サンクトアークにかつての賑わいはない。
 王国の柱であったアルフォンソを失い、サンクトアークの家臣団は、まとまりと戦意を何処かへ投げやってしまっていた。軍は有名無実となり、行政組織は機能していない。
『このままででは王国は滅ぶ』
 王国の家臣団は、上も下も、王宮の各所で、相手を見つけては談義を繰り返した。
 この状況を打破するには、大規模な荒療治が必要だと誰もが自覚していた。しかし、誰がそれを主導するのか、思考はそこで袋小路に迷い込む。「アルフォンソ様さえ生きていれば」とこの時期多くの者が嘆いた。
 そんな時、急な呼び出しがあり、家臣団全てが王の間に集められた。カルロス2世が何か方策を打ち出すのかと、全員が息を詰める。だが、現れたカルロス2世に、覇気は一切見られない。
 玉座に座ったカルロス2世は、王冠と王杓をサイドテーブルに置く。
「余は正直ホッとしている。父上の代わりなど出来ない」
 くしゃくしゃの髪を振りながら、ただ足元を、焦点の合わぬ瞳で見ている。
「お父様、申し訳ありません」
 状況を掴めずただ呆然とする家臣団の前に、第一王女クリスティーが進み出た。
「私(わたくし)は戦います。それがオルテガの血を受け継ぐ者の役目です」
 クリスティーはそう父に別れを告げた。
 カルロス2世は力無く立ち上がと、二人の兵に支えられながら玉座から離れていく。
「心配要りませんよ」
 ドアのところで心配げに振り返ったカルロス2世に、クリスティーは音を出さずに口だけを動かして、そう告げる。
 カルロス2世は弱々しく頷くと、壁の向こうへと消えていった。
「さて」
 クリスティーは一度固く瞼を閉じて、こみ上げてくる感情を押し殺した。そして、次に開いた時には、決意に満ちた瞳から強い輝きを放つ。
「これより、我が弟が3代アーカス王に就く。異議のある者は今申し立てよ」
 凛とした声が、王の間に響き渡ると、水を打ったように静まり返る。
「……」
「沈黙は同意を取る。これからはここにいる全員が、罪を共有し、運命をともにする。自分だけは違う意見だったなどの逃げは一切許さない」
 クリスティーは全員を見渡し、毅然と演説する。
「我が弟、カルロス3世はまだ8歳と幼い。故に、私(わたくし)が摂政としてこの国を治める」
 この威厳こそが家臣達の求めていたものだったのだろう。語り合うことなく、全員がその場に跪いた。
「これにより、アーカスは新生する!」

 この劇的な歴史的光景を、冷ややかに見詰める目があった。
「女には女ですか、大佐?」
 白い軍服を着た男が笑う。名をテオドール・リヒターといい、ごつごつした容姿は冴えないが、ずば抜けて優秀な頭脳を持っている。襟には少佐の階級章があった。
「そうでもないが、これでアーカスとサリスは共倒れだな」
 ジェラルド・ハインツ・シュナイダー大佐は不敵に笑った。
 シュナイダーはヴァイスリーゼ(白い巨人)のリーダーで、士官学校を創立以来最高の成績で卒業した天才である。戦略家としての見識と、戦術家としての巧緻さ、軍政家としての処理能力、戦士としての勇敢さを、併せ持った軍人として傑出した人物である。その容姿も美しく、均整のとれた長身、鋭気をみなぎらせた端正の顔立ち、長い金髪を束ねた美丈夫である。この時、30歳。エリート中のエリートである。
 この二人の背後に、ヴォルフガング・サヴァリッシュ大尉。ルイーゼ・イェーガー大尉、ベアトリックス・シャルロッテ・フォン・フリッシュ中尉が並んでいる。
 その時、サヴァリッシュがシュナイダーに一歩近寄る。
「大佐、潜入させていた者からの情報です――」
 サヴァリッシュ大尉は、逞しい長身で、ブラウンの髪を短く刈り上げている。甘さを微塵も感じさせない鋭い眼光で人を見下す。自分の判断が一番正しいと思っていて、反対意見を一切認めない性格をしていた。
「ディアン派は分離して、セレーネ半島に向かったそうです」
「意外に簡単ね――」
 ルイーゼ・イェーガーの瞳が挑戦的に光る。
「アベールも結構使えるじゃない」
 ルイーゼは、赤い巻き毛を男のように短く刈り、クールで戦闘的な顔立ちをしている。知性と行動力に満ち溢れた女傑で、一切の妥協を許さない攻撃的な性格をしている。
「いや、ピカードやフェロン、そして、フランコ残党など、完璧にお膳立てやってやったのだ。このくらい当然{あたりまえ}だ」
 リヒターが横目でルイーゼを見て、アベール達を嘲るように答える。
「ベアトリックス中尉」
 シュナイダーのもう一人の女性を呼ぶ。
 ベアトリックスが近付く。ベアトリックスは、クリーム色の髪が腰まで伸びて、自然にカールしている。顔立ちは柔らかいが、事務処理能力に長けた秀才である。
「はい」
「お前は、スピノザ伯爵令嬢とは知り合いだったな?」
「はい」
「情報を得ろ」
「はっ」
 言い終わると、シュナイダーはすぐに視線を別の人物達へ向ける。
「リヒター少佐とサヴァリッシュ大尉はここに残って、監視を続けろ。介入の判断は任せる」
「はっ」
「イェーガー大尉は本国に戻り、状況を説明しろ」
「はっ。しかし、大佐は?」
 ルイーゼは短く答えた後、僅かに不審な表情をしてシュナイダーに訊き返した。
「俺はウェーデリアに行ってみようと思う……」
 シュナイダーはすぐに歩き出した。
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Date:2011/01/16
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