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□ ほんの短い夏《序章前編》 □

――4――

――4――
 夜になると、凶暴な厚みをもった雲に、空は覆われて、激しい雷雨になった。木々が狂ったように揺れて、道端の小さなお堂は、強い風雨が吹き付けて、みしみしと悲鳴のように軋んでいた。
「虚空蔵……像かぁ……」
 鷹佐は、雷光に浮かび上がる本尊をじっと見詰めて、かすかに呟く。
「へえ?」
 蓑と笠の手入れをしていた聡乃丞が、顔を上げた。そして、鷹佐の視線から、聞き取れなかった言葉を補完した。
「ああ、隣に鷹迫谷系羽月家の荘園があるからなぁ」
「そうなんだ」
 鷹佐は聡乃丞の前に坐り、繕っている蓑を確認した。
「相変わらず器用だ」
「ありがとうよ」
 顔を上げず、にやりと口元を弛めた。
「しかし、お前も相変わらずだな」
「何だが?」
「すぐに女ともめる」
「今回は濡れ衣だ」
「どうだかな」
「説教か?」
「苦情だよ」
 二人は少年のように悪戯っぽく吹き出し、それから競うように笑い声を大きくした。
 その時、風で扉が開いて、蝋燭の火が消えた。
「あ~ぁ、濡れたぜ」
 聡乃丞が愚痴りながら、腕を伸ばして、扉を閉める。
「お前……」
 そして、坐り直すと、低い声で呟いた。雷光が、その険しい表情を浮かび上がらせる。
「小原藍堂様は、お前がやったのか?」
「違う」
 鷹佐も重い声で答えた。
「俺はあの人の夢を終わらせただけだ」
「……また訳のわからんことを」
 聡乃丞は、白い歯をこぼす。
「何だよ」
「いや、よく喋るようになったなぁ、と思ってな」
「そうか」
「昔は自分のことを決して語らなかった。それに、いい笑顔も出来るようになった」
「どんなヤツだったんだ」
 鷹佐は苦笑する。そして、軽い口調で反撃した。
「アンタの方は、そのお節介な性格は、変わらんようだな」
「説教か?」
「苦情だよ」
 二人はまた笑い上げた。
「まあいいさ。それにしても――」
 聡乃丞は表情を明るくして、かつ、声も軽くしている。
「よくあの槍の衝きがかわせたな」
「舞の奥義を応用した。興味あるか?」
「いいや、俺はもう戦闘には出ない」
「いいお父さんだからな」
「娘に手を出すなよ」
「幾つだよ」
 聡乃丞は、腹を抱えて笑う。そして、酒が欲しいな、と呟いた。

 未明、雨は止んでいる。
 鷹佐はお堂を出た。野袴に草鞋をはき、蓑と笠をつけて、旅の身支度を整えている。
「それじゃ」
「おう、気をつけろよ」
 蓑笠の紐を締めながら、別れの挨拶を簡単に済ませる。そして、鷹佐は峠の方へ、歩き始めた。
 速く流れる黒い雲の隙間から、細く頼りない月が覗いて、足元の道を微かに照らしている。
 石柱の道標を越えると、石畳の坂道が、ずっと山の奥へと続いていく。きつい勾配はなく、よく整備されている。左右には大きな杉が立ち並ぶ。か弱い月の光さえも遮り、往還は一段と暗くなる。陰気な風が、人の住む世界との区別を感じさせた。
 暫く進むと、杉の根元の草に隠れて、石仏が建っていた。少し傾いた竹の筒に、榊が差し込んである。旅に倒れた者たちの魂を、静かに慰めているのだろうか……。
「何処も同じだな……」
 鷹佐は足を止めた。小さな水たまりに映った月が、波紋に割れている。しばらく黙礼すると、また坂を登り始める。そして、峠の頂に至った。
 東の空の果てから光が刃のように差し込み、闇一色だった世界を、上下二つに引き裂く。空の星々の光が一つずつ消えて、空も海も陸も、何もかが茜色に熔けていく。
「次は、あの人に会わなければならない……」
 鷹佐は、ひとり朝陽に誓った。
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Date:2012/04/24
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