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□ ほんの短い夏《序章中編》 □

――2――

 ――2――
 勝宝8年、夏。
「古文書の通りだ――」
 榊調査隊が、踊るように上を見上げて、叫ぶ。
「見ろ。とても自然にできたとは思えん。壁は、ほぼ直線で、ほぼ垂直にずっと上がっている。頂上は曇に隠れて見えないぞ。古文書の通りだ」
 榊調査隊は、V字型の巨大な切通しを進んでいた。古文書には『大谷』と書いてある。
「ここは、何もかも規模が違うな。わははは」
 石堀隼人助が、大袈裟に笑う。疲れ切った隊員たちの士気を、何とか上げようと必死だった。しかし、そんな努力も虚しく、誰も続く者はいない。
「なあ、鷹佐――」
 とりあえず、一番若い鷹佐を標的に選んだ。
「土産話に事欠かないなぁ。わははは」
「……」
 しかし、鷹佐も疲労が限界を超えていて、何も答えることがでない。担いだ小舟が、肩にくい込んでいる。
「だからそんな物さっさと捨てろ!」
 先頭を歩く榊造酒之丞が、振り返って怒鳴った。
「しかしなぁ――」
 石堀隼人助が困り顔をする。
「この先に大湖あるぞ」
 大陸の中央には、巨大な湖が存在すると信じられていた。
「そんなものはない。ここにそんなことは書いてないぞ!」
「しかしなぁ。失敗が許されない旅だ。念には念を入れておくということで、最後はお前も納得しただろう」
 石堀隼人助が、うんざりした表情で答える。
「勝手にしろ。俺は手伝わんぞ!」
 榊造酒之丞は言い捨てると、また一人先頭を離れて歩く。前のめり歩く姿は、今にも走り出しそうだった。
 榊調査隊は、数日かけて切通しを抜けた。
「ここが、あ、あ、あの、ニ、ニ、二番減る霧氷国か?」
 石堀隼人助が困惑顔で呟いた。
 榊調査隊は、建物の跡らしき場所にいた。と言っても、礎石らしきものが、あるように感じ取れるだけで、具体的な痕跡を見出すことはできない。しかも、相変わらず、凍った大地には、草一本ない。
「ニヴルヘイム氷国ですよ」
 鷹佐は、運んできた小舟を、斧で解体しながら答えた。無限に広がる大地を、幾ら見渡しても一滴の水も見つからない。もはや小舟は無用の長物と化した。
 焚火の焔が、凍てつく星々を燻す。命がけで運んだ小舟は、薪となって男たちの命をつないでいる。しかし、炎を囲む顔はどれも疲れ切っていた。
「この穴は何だろう? 井戸とも思えんし」
 石堀隼人助が、一切れの干し肉をかじりながら問う。凍った大地には、無数の穴が、辺り一面に掘ってあった。
「我々以外にも、ここに来た者がいる、ということだ」
 榊造酒之丞が、石ころを一つ穴に投げ込んで答えた。 
「そいつらも、地下への入り口を探していたらしい」
「地下?」
 鷹佐が顔を上げて問う。
「お前には教えていなかったが……」
 榊造酒之丞が、いつもの熱い口調で語りだした。
「古文書に『9つの神代都市は世界樹の根で繋がっていた』とあるが、この『根』というのは、何らかの移動手段を指すと私は確信している」
「……ということは」
「その根を見つければ、すぐに世界の中心に行ける、ということだ」
 石堀隼人助が鷹佐の肩をたたいて、白く凍り付いた髭面で微笑んだ。
「しっ、静かに!」
 その時突然、調査隊の中で、もっとも武芸に秀でた犬飼段蔵が叫んだ。周囲に何らかの気配を感じていた。
「気をつけよ。囲まれているぞ!」
 犬飼段蔵は焚火を消した。
 その時、月明かりが、岩の上に巨大な影を浮かび上がらせる。
「何だ、あれは!?」
 二本足で立ち姿は熊の如く、顔は猫を思わせ、槍のような武器を握った姿は人間に似ていた。しかし、その身は人の二倍をゆうに超え、全身を鋼のような青い毛で覆われていた。


 久宝2年3月。
「ちぎっては投げ、ちぎっては投げ、ばったばったと切り倒す」
 榊屋敷の座敷に、榊調査隊の家族が続々と集まってきた。麻由美の手際の良さには、舌を巻く。幼い子供から老人まで、座敷にずらりと並んでいる。鷹佐は、彼らに、旅の話をする。しかし、熱が入り過ぎて、講談口調になっていた。
「上妻様も、お疲れの様子です――」
 すかさず、麻由美が、気を利かせた。
「今夜はお開きに致しましょう」
「……失礼いたしました」
 鷹佐は少し恥ずかしそうに、片膝立ちから正座に戻し、叩き過ぎてボロボロになった扇子を背後にそっと隠した。
――やれやれ、嘘を付くというのは、存外疲れる……。
「あの……」
 その時、一人、話しかけてくる女性がいた。
「はい?」
「石堀詩織と申します」
「ああ」
 石堀隼人助の妻である。
 あの無骨な男の妻は、濃い目の化粧が似合う派手な顔立ちをしていた。特に、厚くて大きな唇が、情熱的で濃厚な色香を醸し出している。
「あの……」
「はい」
「是非とも我が家で続きをお聞かせください」
 躊躇いがちな表情から、一気に弾けたように告げた。
「はぁ」
 疲れから曖昧に頷くと、脇に麻由美が坐り、お茶を差し出す。お茶の中に梅が入っていて、細やかな気遣いを感じさせた。
「どうかなさいましたか?」
「いえ、石堀様が……」
「いえ、今宵、我が家にて、もう少しお話をお聞かせ願えればと思いまして、お誘い申し上げておりました」
 鷹佐の言葉を遮って、詩織は笑顔で事情を説明した。その笑顔に、どこか芝居っぽい雰囲気が漂っている。
「そうですか、でも……。えっ、あなたっ?」
 それに対して麻由美は、すっかり泊めるつもりで手配を進めていたから、少し困ったような表情をした。しかし、すぐに詩織の隠している意図に気付いたようで、思わず驚いた素顔を晒してしまう。
「何か?」
 詩織は、大きな口を緩めて、澄まして微笑む。そこに初めに見せた躊躇いは、皆無である。まるで自分の意図に気付いた麻由美の反応を楽しむようでもあった。
「……」
 麻由美は、返す言葉に迷い、じっと石のように固まってしまった。
 二人の未亡人のやり取りを横目で見ながら、鷹佐は関わりを避けるように、素知らぬ顔で茶をすすった。
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Date:2012/04/26
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