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□ ほんの短い夏《序章中編》 □

――4――

 ――4――
「榊造酒之丞殿は、魔物に襲われて亡くなられたのか?」
「御意」
――嘘だ。
 鷹佐は奥歯を強くかみしめて、心の封印を固くする。
「当代髄一の秀才であったと聞く。惜しいことよのぉ」
 鷹佐は、直垂姿で、大将軍の御所の一室で、幕臣の奉行と対面していた。
 早朝から昼過ぎまで待たせて、現れた男は、かつて鷹佐が虚空蔵寺紀彰の小姓を務めていたころには、見ない顔だった。
――もはやここも居場所ではない。
 一抹の寂しさが心を過った。
「それで、これらが神代の遺産か?」
 奉行は、桐箱の中、紫布の上にある、掌ほどの破片を、扇子で指して問う。
「はっ」
「んーーー、……であるか」
 胡散臭そうに、顔をゆがめて唸る。
「榊造酒之丞様が命がけで見つけたものでございます。金属であるのか、陶器であるのか、不明でございます」
「ほーお、……であるか」
 全く関心を示さない声である。
「我々は榊造酒之丞様を失いましたが、旅を続けました。それからも旅は死地の連続であり、耳長族の集落の入り口に辿り着けたのは、手前一人となりました」
 鷹佐が淡々とした声で語る。
「耳長族は、霧の中の魔物を狩って、その毛皮や牙を加工して生活しておりました。その品々を目当てに、南方の国々から交易商人が参っており、手前は、その隊商に同伴を許されて帰ってくることができました」
「なるほどのお」
 鷹佐は、背後に控えていた男たちに、目配せした。彼らは、次々に宝物を運んできた。
「砂漠のハルシャ国、南方のイム国や宝像国、そして、テチス海の島々の品々です」
 珠玉、金、銀、桂皮(シナモン)、香料などがずらりと並ぶ。
「であるか!」
 奉行の目が燦々と輝いた。
「長旅、大義であった」
「はっ、有難き幸せ」
 鷹佐が恭しく礼をする。


 都の西の山に日が沈みかけて、家々の屋根に無数の金粉のような光をまき散らしている。そして、都の北の北山は、すでにすっかり暮色に包まれていた。
 薄暗い竹藪の中の坂道を抜けると、風流な数寄屋造りの小さな一軒家があった。榊家の屋敷である。
 門の前まで来ると、屋敷の中の騒がしさに気付く。たくさんの人々が集まり、葬儀の準備が行われていた。
「ご苦労様でした――」
 喪服姿の麻由美が、仕事の手を休めて、丁寧に頭を下げた。鷹佐は、真新しい仏壇に手を合わせる。
「直垂と下男をお貸し頂き、忝く存じます」
 向き直って、深く頭を下げる。
「お気になさらず。これで榊の長い旅も終わりました」
 そして、麻由美は、鷹佐を労わるように微笑んだ。
「盟主をお守りできなかったことを、深く恥じております。心よりお詫び申し上げます」
「あなたが帰還したことで、榊の無謀な計画も何とか成功で終わることができました。心より感謝いたします。よくぞお帰り下さいました」
 麻由美は、一切の影のない凛とした顔で答え、深々と頭を下げる。
――似ているかもしれない……。
 このように気品があり、高潔な精神をもつ女性を、鷹佐はもう一人知っていた。


 勝宝8年、夏。
「ううう……」
 鷹佐は呻き声を上げながら、目を覚ました。その途端に、後頭部に激しい痛みが走り、瞬時に顔を顰めた。
 覚えているのは、不気味な一団に囲まれて袋叩きにされた、というところまでだった。
 一団は、皆、ぼろぼろのフード付のマントで全身を覆い、怪しげな仮面をかぶっていた。仮面は、厚い水中眼鏡と口が筒のように飛び出ていた。
 鷹佐は辺りを見渡す。まるで筆箱の中にいるような感覚だった。きっと船だろう、と訳もなく直感する。しかし、鷹佐の知る船ではない。すべてが薄い金属でできている。
 今さら驚かない。ここでは、鷹佐の常識が全く通用しない。知らないこと、分からないことばかりなのだ。
「……」
 ぐぅーとお腹が鳴った。空腹、疲労、苦痛でもはや考える気力もない。生への執着が薄らいでいるのを感じていた。
 その時、扉が開いて、先ほどの輩が独り入ってきた。
 マントを脱いだ姿は、鮮やかに輝く銀の外装に、間接部を伸縮自在の黒い幕で被い、そして、強固な灰色の管が全身に張り巡らされている。
「コルセチマハンガ」
 謎の言語で喋りかけてきた。
「ヨヨケハシムキシチサ」
「何言ってんのか、分かんねーんだよ」
 鷹佐は、精一杯俗っぽい言葉を使って、悪態を見せる。
「くくく、ガキガハ」
 マスクの奥からくぐもった笑い声がした。
「あん!」
 馬鹿にされたことだけは、十分に伝わってくる。鷹佐が寝転んだまま、ふてぶてしい顔で睨む。
「え?」
 その時、いきなりマスクを外し始めた。夜空を流れる天川のような銀色の長髪が、さらりと垂れ落ちる。
 マスクを床に放り投げると、息苦しさの開放を喜ぶように深い息を吐き出した。そして、顔にかかった前髪を払いながら、バラのように赤い唇に小さな笑みを見せる。
 小麦色の肌に、切れ長の目、長い睫が揺れるたびに、潤んだ瞳が煽情的に輝いている。鼻は高く、頬は薄く、顎は鋭利に尖っている。そして、最も特徴的なのが、銀髪から左右に特徴的な長い耳が伸びている。
 鷹佐が初めて見る顔立ちであった。
――美しい……。
 思わず目を大きく見開き、食い入るように見つめる。心臓が破裂せんばかりに速まっていた。
「何を見ている」
 言われて、鷹佐の顔が真っ赤になった。
「いや、別に……え?」
 そして、そそくさと視線を落とした。故に、言葉が通じたことに気付くのに、しばらく間があった。
「え? え? ……言葉が分かるのか?」
 驚きの表情で、神秘的な美女を見上げる。
「我々はお前たちとは違い、無限の時を生きている。昔、暇つぶしに覚えたのさ」
 高慢な口調だったが、そこに一切の不自然さを感じなかった。全身から発せられる存在感に、一方的に圧倒されていた。
「……耳長族なのか?」
 長い耳を見つめて、恐るおそる問う。
「その呼ばれ方は好まぬ」
「……はい」
 鷹佐は、素直に頷いた。恐怖やら怒りやらは、もはや久遠の彼方に遠ざかっている。心には、この異世界の美女に対する好奇心しか残っていない。
「ふん」
 美女は鼻で笑うと、籠手を外し、胸当てを取り、長靴を脱いだ。
 薄い緑色の服は、植物の葉を模しているようだった。そして、肌を隠す面積が極めて少ない。両肩が大きくあき、胸の膨らみを辛うじて隠している。また、下腹部も、前をV字型の衣で最小限に被い、横と後ろは紐状になり、それを半透明の生地で巻いている。
「ああ、楽になった」
 手足を伸ばして軽く柔軟すると、女は華奢な身体で品を作り、腰に手を当てた。
「無知とは恐ろしいものだ。この毒気の中で、防護服を着ないとはな」
 美女は嘲るように笑う。それを受け入れる自分に、鷹佐は戸惑っていた。
「私はダークエルフ族のケレブリアン。銀冠の美姫という意味だ」
「お、俺は鷹佐……鷹をたすける男という意味だ」
 完全に、雰囲気に飲み込まれてしまい、相手の調子合わせて自己紹介した。
「そう鷹を助けるの。ふふ――」
 美女は好奇心をそそられて、面白そうに微笑んでいる。
「さて、本題に入ろう。ボーヤたちの目的は何?」
「神代の遺跡調査……」
 尋問に、鷹佐は率直に答えた。
「あははは――」
 美女は、大きな声を上げて笑った。
「こんな所に何も残っていないさ」
「……」
 事実、これまでに何一つ目新しい物を発見できてない。鷹佐は黙り込むしかなかった。
「本当のことをお言い!」
「本当だ……それしか知らない」
「じゃ、地下に潜ったあの男は何?」
「誰のことだ? ……まさか、造酒之丞様が生きているのか?」
 限界まで目を見開いた。
「あんた何も知らないのね――」
 美女の瞳に憐みの情が過る。
「あんたたちは捨てられたの!」
「……」
「あーらら、言っちゃった、てへぺろ」
 呆然とする鷹佐に、美女は目を細める。
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Date:2012/04/28
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