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□ 幻想の嵐≪続エリーシア戦記≫ □

第六章 桜雨の幻想

第六章 桜雨の幻想


 春の入り口は、セリアでは雨の季節である。ここ数日雨が降ったりやんだりで、はっきりしない日が続いていた。
 この日も、朝は霧雨が降っていたが、昼前には日が照り渡り、濡れた石畳が眩しく光っている。
――俺はまだ生きている……。
 セリアに帰還後、出迎えたユリウス1世は、特別上機嫌だった。
 連日盛大な戦勝式典を催しては、
「ガノムの赤騎士こと、レッド・アンタレスを討ち、ビルンタールの勇将カスパー・アウツシュタインを討ち、乱の首魁ギードの主力に致命傷を与えた。これほどの武勲を初陣であげよったぞ。末恐ろしいわ!! がははは!」
 などと発言した。
 相変わらず、豪快に酒を飲み、かつ、愉快に豪笑する。
「こいつだが、だ。がははは」
 そして、まるで孫でも褒めるように、何度も頭を撫で回しながら、戦果を誇張して吹聴した。
 それらを黙って受け入れた。抗う気持ちはきれいに消えている。彼ほどの男が、決断し実行するのならば、それだけの意味があるということなのだろう。死んでいった部下たちに、恥じることはない、と思っている。
 そして今、セリアで最も華やかな通り『弥生坂』のオープンカフェにいる。
 目の前を、流行の薄手の服で着飾った人々が通り過ぎていく。手には、色とりどりの傘を持っている。
「嫌よ! こんなの!」
 隣に座るアイラが、劇場のチケットを破った。
「どうして、あたしが、こんな女の芝居を観なくちゃいけないの」
 そう激怒すると、一人席を立った。
「見苦しいところを見せたな」
 とりあえず、冷めたコーヒーを飲み、向かいにいるラグナ・ロックハートとアイリス・ド・サリヴァンに謝罪した。
「追った方がいいのでは?」
「構うものか……」
 ため息交じりに呟く。
「少し頭を冷やした方がいい」
 テーブルの上に散らばるチケットを寄せ集める。
「最近はどうだ?」
 ラグナが話題を変えてくれた。しかし、気分は変わらない。
「いろいろ煩わしいことが多くて、困っている――」
 実際、困っている。新しい領地を得たが、派遣した代官から、毎日のように報告書が届いてウンザリしていた。
「農民が、前領主に対する年貢の滞納や、借金、貸し付けた種籾を帳消しにしろ、と騒いでいるらしい」
 コーヒーのせいだけじゃなく、胸の奥まで苦い気分になる。
「ある代官は、一度そんなことを許せば、付け上がると言うし、別の代官は、農民を怒らせれば後々面倒になると言うし、で悩んでいるところだ」 
「法に従えば、そんな必要はないだろう」
 ラグナがコーヒーを飲み終える。
「借りた物は返す。これは社会の基盤だ。これが揺らげば、返ってくる保証がないなら誰も貸さなくなる。そうなって困るのは、やはり農民であろう」
「まあそうなのだが、今のところ、金が必要なわけじゃないから。ちょっとなら、いいかなぁという気分でもある」
「領主が法を遵守するのは重要な事だぞ」
 ラグナはそう答えた。
 彼は法学に傾倒し、青雲乃志を持って大法院に入院した。そして、地方廻りを終えて、セリアに戻ってからは、エリート街道を邁進している。清廉潔白な彼を、大法院は将来の幹部候補として期待していた。
 ラグナは、カップの持ち方一つにも、知性から来る品の良さがあった。目が厳しく冴えて、瞳は奥深く鎮まっている。一方、首から下は、鋼のように引き締まり、均整の取れた肉体をもつ。文武両道、絵に描いたような好青年である。
 今日は、ビアンカからチケットを贈られたので、彼と彼の許婚アイリス・ド・サリヴァンを誘った。四人で、軽く食事をしてから劇場へ向かう予定だった。
 彼女は相変わらず、美しい。鼻はすっと高く、顎はきれいに尖り、彫りは深い方だろう。しかし、少し垂れた目尻が、冷たい印象に打消し、愛敬のある可愛らしいものにしている。何より、奇麗に透き通った声は、聞く者の心に深く入り込んでいくようだった。
 だが、アイリスが席を離れた直後、急に険悪な雰囲気になっていく。
「だが、君がガノムでやった事は、決して誉められたものではない」
「どういう意味だ?」
 声は笑ったが、目は怒りを含んでいる。
「君は民衆を道具にした」
「はあ?」
「虐殺すると脅し、ビルンタール軍を誘き出して殲滅した。これは軍法に違反する」
 何もかも、自分の一人のせいになっているらしい。とんだ天才戦術家の誕生である。
「その場にいなかったものに何が分かる。戦場では何でも起きるし、何でも工夫しなければ生き残れない」
 つい声に毒を滲ませてしまう。ラグナに対して、このような態度をとったのは初めてかもしれない。
「君の言葉とも思えん!」
 ラグナの汚れを知らない眼差しが貫く。
「君の焦る気持ちは分かる。新しいディーンとして武勲は必要であろう。だが、だからこそ君は法に正道に拘るべきだ」
「俺の気持ちが分かるだと!」
 その言葉で、ついに、感情が爆ぜた。もう怒りを隠そうともせず、さらに、声を荒げてしまう。
「我々はすでに公人だ。そうやって簡単に感情を表すな。公人ならば、私事を捨て去るべきだ。それこそ、人の上に立つ者の有り方であろう」
「ご立派だな」
 拗ねたように、横を向き、脚を組んだ。
「君は将来ティルローズ様の婿になるのだろう?」
「え?」
「ならば、今から言動を慎むべきだ」
「ちょっと待て、何を言っている?」
 突然の言葉に、腰を抜かさんばかりに驚いた。
「ユリウス殿下がそういうお考えだというのは、セリア中が知っている」
「……」
 声が出ない。驚きで強張った体が、逆に溶けるように脱力する。
――殺さずに、種馬にするというのか?
 心がささくれ立つ。そして、要らぬことを言った。
「じゃあ、敢えて聞こう、彼女が暴漢にでも傷付けられた時、お前はどうする?」
「法で戦う」
 迷いのない声で、即答する。
「その剣が泣くぞ!」
 苛立ちは頂点に達した。思わずテーブルを叩く。
「剣では何の解決にもならない。現に君の行いで、多くの人々が君を恨んでいる。禍根は禍根を産む。だからこそ法があるのだ」
「……」
 黙り込む。正論を吐く親友をじっと見た。
 今、この男を傷付けてやりたい、という負の感情を抑えることが出来ずにいる。
「ごめんなさい、お待たせしました」
 そこに調度、アイリスが戻ってくる。彼女はすぐに二人の様子に気付く。
「どうかした?」
 アイリスは交互に両者を見る。
「……」
 ラグナは黙って目を閉じた。
「君には関係ない!」
 一方、感情を整理できずに、無意味に彼女を睨んだ。
「……」
 アイリスは戸惑ったように立ち尽くす。
 まるで悪魔に魅入られたように言葉を失い、蜘蛛の巣に捕らわれた蝶のように、儚げに瞳を揺らしている。
「何でもないよ――」
 ラグナの声はもう落ち着いている。
「まだ仕事があったのを思い出した。今日はこれで失礼する」
 そう言い残して、席を立った。
「……何があったの?」
 アイリスはようやくそう訊ねた。
 だが、何も語ることはできない。自分が惨めだった。とにかく、アイリスを送って帰る事にした。最近では、暗殺、テロが頻繁に起こり、治安が悪化している。
 彼女の部屋は、館とは反対方向にあった。
「このまま帰っては疲れるでしょう」
彼女は気を遣い、部屋に誘った。きっと喧嘩の原因を気にしているのだろう。自分も、怒鳴ったことを謝るいい機会だと考えた。
「お茶でよかったかしら」
 しかし、紅茶を用意する手がカタカタと小刻みに震えている。やはり先ほどの怒気が、彼女を委縮させているようだった。
「申し訳なかった」
 頭を下げる。
「え?」
 彼女は、びっくりしたように、妙な瞬きを繰り返す。
 それほど謝ることが意外だったのだろうか。気恥ずかしくなり、視線を窓へ向けた。そして、偶然、机の上に論文を見つける。
『……神威帝は、戦乱の拡大を望んではいなかった。今こそ軍事力の削減を実現して、話し合いでの外交解決を目指して行くべきである』
 表題は平和論である。
「どうぞ、お茶が入りました」
「……これ、面白い論文だね」
 皮肉のつもりで言った。
「ああ、それ。まだ途中なの」
 しかし、彼女はちょっと照れながら嬉しそうに答える。
「本気かい?」
「え?」
「これらが一方的に戦争を放棄しても、敵は許してはくれないだろう」
 軽く笑った。
「現実的ではないと言いたいの?」
「そうだな。学問としてはいいが、政治ではない」
「そうかしら。神威帝の登場まで、どれだけの人が、エリーシアを統一できる、と信じていたと思って?」
 その口調には、強い信念を感じだ。
「神威帝は別格だ。だが、その神威帝ですら、戦闘を断絶する事は出来なかった。人は何時の日か、誤解なく他者を理解できる時が来るかもしれない。だが、それはまだまだ先の話だ。今の人は、争いを乗り越えられない」
「私はそうは思わないわ。人の英知は争いを超える。その為の法でしょ」
「誰かさんの口癖だな」
 苦笑いして、紅茶を口にする。すっきりとしたいい香りがした。
「ラグナの影響ではないわ。これは知識階級では一般に普及しつつある思想よ」
「では、今すぐ外の暗殺やテロを解決して見せろ!」
 不覚にもまた逆上してしまい、鋭い視線を向けてしまう。
「一度も死の恐怖を体験していないから、そんな甘い事が言える。生きると言う事は戦うという事だ。奪われたくなければ、先に奪うしかない」
「貴方は甘いと言うけれど、その考え方が争いの根源よ」
「この豊かな生活は、天から与えられたものだとでも思っているのか。どれだけの兵士が、この紅茶一杯のために、地獄の中を流離っていると思っている!」
「……ひっ!」
 彼女は、心底ぞっとした顔をしている。何も言い返してこない。そして、驚くことに、涙を流している。
――彼女が泣くなんて……。
 信じられない光景だった。
――それほど、俺は鬼や悪鬼に見えているのか?
 自問自答する。そして、信じられないことが、自分の胸の内でも起こってしまった。
 心が、先ほどのラグナとの会話の中で生まれた負の感情に、再び包まれていく。
――この甘いカップルに、現実を理解させたい。暴力はすぐ傍にあるのだ。
 そして、
――一皮向けば、この二人はどんな姿を見せるのだろうか?
 気が付いた時には、アイリスを抱き締めていた。ここで止めるべきだった。だが、彼女の怯えた瞳に、導かれるように行為を続行してしまう。
「……うううっ!」
 押しつけるように、唇を重ねる。
 彼女は、固く瞼を閉じて、口を真一文字に結ぶ。
「お前は俺を部屋に入れた時から、これを期待していたんだ」
「……ち、違う……うぐぅ!」
 彼女が否定の言葉を吐いた瞬間に、舌を差しこんだ。
 舌を絡め取り、歯茎の裏をなぞり、口腔を犯す。
「ああ、ううん……」
 途端に鼻を鳴らして、さらに支えが必要なほどに脱力していく。
「ひぃいいいい、いやあ!!」
 そして、突然、目を大きく見開いて、金切り声のような悲鳴を上げた。
――ウソだろ……。
 あろうことか、彼女は失禁している。
「ど、どうして、あ、たし……。そんな。見、見ないで!」
 全身をわなわなとふるわせて、引きつった顔を両手で覆う。その指の隙間から、動揺した切った声と嗚咽がもれ始めた。
 尋常な反応ではない。
「俺の目を見ろ」
 しかし、その瞬間、あることを直感した。
――彼女は!
 そして、それを意識した時から、心の奥底で燻ぶっていた怪物が、目を覚まして、這い上がって来るのを感じた。
「見るんだ!」
 顔を覆う手を剥がして、激しく言う。
「ああ……」
 彼女は泣きながらも、命じられたままに、恐るおそる瞼を開く。
「あ、赤い炎が瞳の中に……ひっぃ!」
 瞳の中を覗き込んだ途端に、彼女は震える声でささやき、まるで雷に打たれたようい泣き止んだ。強いショック状態で、もはや悲鳴を上げる余裕もなく、ただその場で凍り付けになっている。
「今、お前を解放してやる」
 彼女は小さく頷く。ほつれた髪の毛を掻き上げて、火照った顔で上げて、ぼーっと潤んだ瞳でじっと見詰める。
「ああ、いじめて……」
 ひとりでに、マゾヒスティックな想いが言葉になって口を突いて出たのだろう。言った後から、酷く狼狽したように口を押えた。
「あ、あたし、なんてこと……」
「縛ってやろう」
 耳元でささやく。
「ああ……」
 涙を流し、唇を震わせて、アイリスは狂喜の表情を浮かべる。
 もう一度唇を奪う。
 それから行為は一気に過激になった。
 手首を素早く括り合わせると、グイッと縄尻を引き上げた。頭の後ろで手を組んだ形を強制させて、背中から胸元にロープを回して、乳房の上下に巻き付ける。
「ンむむッ!」
 口には、丸めたショーツを押し込んだ。
 抵抗できない女を、荒々しい手付きで愛撫する。まず乳首を抓り、さらに、剥き出しの尻を叩いた。
 その瞬間、頭が痺れるような快感が、背筋を何度も何度も走り抜けていく。
「こんなになっているじゃないか?」
 アイリスも、秘唇から溢れ出した愛液を大量に太腿の内側へ垂れ流している。
 この時確信した。お互いが、確信してしまった。自分たちの性癖に、そして、それが見事に合致していることに。
「偉そうな事を言っていても、こういうのが感じる女なんだよ、お前は。変態なんだよ」
 辛辣な言葉で責める。
 アイリスは苦痛の中にある快楽を初めて知ったようで、戸惑いながらも、顔を燃えるように上気させている。
「……もう…許して……」
 アイリスはショーツを吐き出すと、荒い息の中で弱々しく言った。
「……下さいだろ。まだ自分の立場が分かっていないな」
 縄で裸体を叩いた。
「その淫らな身体に教え込んでやる」
「あっ……ひっ……ンぐッ」
 甘美に悶える。喘ぎとも呻きとも思える声が、彼女の清楚な部屋に響き渡った。
「……もっと…もっと…して…無茶苦茶にして……下さい……」
 ついにアイリスは卑猥な言葉を口にした。
 欲望の塊を、ぎゅっと窄まった蕾みにあてがう。
「そこは!」
 さすがにアイリスは抵抗した。だが、構う事無く押し込んでいく。亀頭が強引に蕾みに押し入っていく。
「……ひっ!!」
 根元まで埋めると、狂ったように頭を振り、理性が麻痺したように喚いた。しかし、溢れ出した愛液の量は、さらに増していている。
「うッ……ハァっ!」
 痙攣するように身体を震わせて、一気に息を吐き出す。そして、食い千切らんばかりに、締め付けてくる。
「壊れちゃう……ううっ」
 初めてのアナルセックスでありながら、アイリスは、入れられただけで絶頂を迎えたようだった。
「お尻なのに……お尻なのに……こんなに感じている……」
 口をパクパクさせながら、一人で勝手にさらに昇り詰めていく。
「私はメス犬……性の奴隷……もう戻れない……のね」
 一際大きなうめき声を上げると、一段と高い絶頂に達した。

「きれいだよ、アイリス」
 ベッドの上でぐったりと眠るアイリスにささやく。
「清純派女優より?」
 パッチリ目を開けて、彼女が問う。起きていたことより、ビアンカのことを話題にされたことに驚いた。
「清純ってなんだよ?」
 全身から痛いほどの汗が噴き出ている。
「勘違いしているが、彼女は変態だぜ」
 思わず、あの日の楽屋での二人を思い出す。


……
………
 頬を朱に染め、瞳を潤ませ、ハァハァと荒い息を吐きながら、前の壁に両手をつき、肩幅より少し広く足を開いて、尻を突き出す。
「みて、見て……」
 そこにショーツはなかった。剥き出しの菊座には細い棒が突き刺さり、その下の穴からはだらだらとだらしなく愛液を零している。
 その淫靡な香りに、雄の本能が目覚めていく。
「私は淫乱な……牝豚なの」
 言いながら、ビアンカは自分で棒を出し入れし始める。もう床には、落ちた滴で薄い膜ができている。
 乱暴に尻を握り、ピシャと叩く。ビアンカは快感に酔い痴れて、甘い吐息をもらす。
「ヒヒヒ……ッ!」
「欲しいか?」
「はい……欲しいです」
 細い声が返って来る。目尻でこちらを意識する瞳は、期待に媚びるようだった
「オマンコが空いています。オマンコも、使いって……」
 腰をしっかりと押さえると、一気に欲望の塊を押し込んだ。
「二つの…穴が……気持ちイイ……」
 ビアンカは雷に撃たれたかのように、身体を大きく反らせると、そのまま固まってしまう。綺麗な髪が振り乱され、清楚な顔は淫靡に歪む。
「あっ、あぁっ!! す……凄いっ……あ…あ…ああぁーっ!!」
 ビアンカの純白の肌に汗が噴出し、棒が深く抉ると、腰をくねらせる。
「もっと……もっと……もっと激しくぅ」
 体内に押し入り、柔らかな粘膜を容赦なく、擦り上げる。
「んっ、んんーーーっ!! ぁあぁーーーっ!! ああぁーーーんっ!! ぁあぁん、んんっ、んくっ! あはぁーーーんっ!!」
 ビアンカは、二穴を同時に攻められ、獣ように叫び声を上げる。
 腸の中を棒がかき回すと、その衝撃できゅっと肛門を締める。と同時に、肉襞がペニスを強く締め付ける。
 さらに官能の火を燃え上がらせて、思わず肛門の力が抜けてしまう。すると、さらに深く棒を突き立てられる。快楽の悪循環が、倒錯的なエクスタシーへと導いていく。
「アッ、ああっ!! い、イクゥッッ!!」
 赤く火照った顔を白く冷たい漆喰の壁に押し当てて、長い綺麗な爪が立てる。そして、絶頂の言葉を叫んだ。
………
……


「なに?」
 アイリスが好奇心の目でこちらを見ている。
「女優は、こっちの穴に棒を入れて」
「あん」
 菊座に指をいじる。
「こっちの穴を犯されるのが好きだった」
 秘唇をなぞる。
「すてき」
 アイリスは、瞳を爛々と輝かせている。
 思わず、最高の相棒にキスをする。

 それから、ラグナの目を盗んで何度も行為に及んだ。ある時は、3人で食事しながら足を絡ませ、ある時は、暗い劇場の客席でその太腿をなで、ある時は、ラグナの死角で唇を重ねた。
 罪悪感が、二人の性欲をより燃え上がらせていた。
 そして、ある午後。
 アイリスは手を後ろで組んでいる。縛られている訳ではないが、決して手を前に出すなと命じられて、それに従っているのだ。
 浴室の壁に寄りかかり、その前で、アイリスはしゃがみ込んで、フェラチオに励んだ。
「ん…ンン……んんっ」
ペちゃペちゃ、と卑猥な水音が反響している。
「相変わらず、好きだな」
「はい、ご主人様、アイリスはおチンチンが大好きですぅ」
 そこには、知性溢れる日頃の姿はない。
「くっ……」
 射精した瞬間、アイリスは強く吸う。そして、喉の奥に精子を感じながら、飲み干す。
「ご主人様の精液を飲ませて頂き、ありがとうございます。次はどうぞアイリスのオマンコをお使いください。そして、熱い精液を注ぎ込んで下さい」
 アイリスはそう言うと、両手を背中で合わせたまま、顔を床タイルに押し付けて、美しい尻を高く持ち上げる。
 それに答えて、肉塊をあてがうと、アイリスは自分から腰を振って、快楽を貪った。
「ああっ、はっあっ、うっはっ、はぁああああっ」
 その時、浴室の窓から、ラグナが歩いて来るのが見えた。アイリスの部屋は3階。すぐに登ってくるだろう。
「……あっ!」
 教えてやると、一段とよく締まる。
「どうした?」
「お願いします……早く……早くイカせて…ください。もうすぐ彼が来るわ」
「時間がなくてもイキたい訳だ。お前はつくづく淫乱だな」
「我慢できないんです……だから……お願いします…」
 二匹の獣は、より一層激しく腰を振り続ける。
「ああうぅ……ああっ…ううっ……」
 獣のような声を、アイリスは押し殺した。コツコツという足音がすぐそこまで聞こえてくるようだ。二人は背徳感と、スリルに言い様のない昂揚感を抱き、これまでになく昇り詰めていく。
「ン……んぐぅつ……んんんっ……あはぁあーーーんっ」
 そして、二人は達した。

 ラグナがドアを叩き、アイリスが開く。そして、彼女は最高の笑顔を作っている。
「どうしたの?」
「ちょっと時間が空いたから、公園でも散歩しないか?」
「ええ、いいわ。ちょっと待ってて」
 アイリスは部屋に戻ると、上着とバックを手に持った。そして、死角でそっとキスをする。その顔は悪女そのものだった。
 ラグナと二人で出かける彼女を、部屋の窓から見送った。その後、言いようのない不快感に胸を締め付けられる。
「俺はここで何をやっているんだ……」

 酒の量が増えた。
 酒を飲んでは、自己嫌悪に陥り、また酒を飲んだ。
 ある日、訪問者があった。
 リュックの妹ミリムだった。
「私、来週結婚します」
「よかったね」
 突然の報告に、久しぶりに笑ったような気がした。
「だから、最後に抱いて」
 予想外だった。酒も残っていた。気が付いた時には、もう胸の中に飛び込まれていた。言い訳はいろいろある。
 しかし、震える瞳で「ずっと好きだった」とささやかれて、正直、酒に穢れた心が、清らかに暖まっていくような気がした。彼女の純粋な好意に甘えて救われたいと思った。
「自分で脱ぐから……」
 そう言って、月明かりの中で、ミリムは服を脱いだ。
「さあ、始めましょう」
 彼女は表情を変えずに、仰向けに寝る。
 ここに至って、ようやく判断に迷ったが、そのまま流されて、ミリムの小さな身体に手を伸ばす。
 乳ぶさを揉んで乳首を吸って転がす。軽い快感を彼女の体に与えていく。
「あっ……」
 彼女の早い鼓動が緊張を伝えてくる。その慣れていない反応に、気分も高まり、愛撫を進める。
 口で乳首を含みながら、左手で空いた乳首を摘む。同時に右手を秘唇へと滑らせていく。秘唇に指が触れると、ミリムの身体が膠着して、小さく拒絶の言葉を吐く。
「……ダメ……」
 右の人差し指と中指で、クリトリスを挟み、摘んだり擦ったりして、小刻みに震わせる。
「うぅ……ん……」
 たまらず、ミリムの手が右手首を掴んでくる。
「大丈夫」
 耳元で囁くと、彼女はゆっくりと手を離した。
 それから、彼女の上に乗り、右手を胸に戻して、両手で揉み解しながら、その先端で硬くなっている乳首を舌先で転がした。
「ンン……ン……」
 恥じらいの残る喘ぎを訊いて、腹部へと舌を這わせながら下がる。
「……いぁ…や……」
 ゆっくりと彼女の脚を持ち上げて、湿った秘唇を広げて、そこに口付けをする。
「ハアァァッ……ン」
 彼女は指を軽く噛む。
 クリトリスを集中的に愛撫する。
 快感が恥じらいを上回り始めて、ミリムは顔を何度も横に振り、眉間に縦皺を作っていた。
「あ、あッ、あんッ!」
 思わず、髪を掴んでくる。
 それでも怯まずに、舌を強く押し当てて、襞を抉るように、秘唇の下からクリトリスまでを舐め往復する。
「ンンッーーーンンッ!!」
 小さな波が、身体を何度も震わせて、ミリムは軽く一度目の絶頂を迎えた。
 一度体を離して、その可愛らしい喘ぎを鑑賞する。すると、彼女は余韻で、胸を激しく上下させながら、手で顔を覆ってしまう。
 その手を剥ぎ、ペニスを口に近づける。
 刹那、ミリムは躊躇いを見せたが、意を決したように、大きく口を開いて含んでしまう。
 舌は動かない。口も窄めない。吸いもしない。だが、それがまたよかった。
 口を離れて、ミリムの入り口へと宛がう。
 目的の物が所定の位置に定まると、ゆっくりと腰を沈めて行く。
「うう……」
 先端が僅かに埋まる。それだけでミリムは首を傾げて、目を閉じた。
「あっあん……」
 そして、完全に腰を下ろし、奥深く咥え込む。ミリムは大きく顔を仰け反らして、小さく恍惚の声をあげる。
「んっっ……」
 ミリムは首に手を回して、小さく控えめに喘いだ。その声と肉と肉がぶつかり合う音が重なり合って響いている。
「あっ…あくぅ…あはぁぁぁ…」
 次第に音に水音が加わり、それに伴って、ミリムの喘ぎも速くなって行く。
 額にうっすら汗を浮かべる彼女の上気した顔を覗き込む。その視線に気づくだけで、彼女は顔を蕩けさせる。
「……いっちゃう……」
 ミリムは一人ぐったりとなり、体に凭れ掛かってくる。荒い息の彼女を抱き締めて、額に張り付いた髪を払い、その頭をやさしく撫でる。
「どうして……」
「え?」
「……いや、なんでもない」
 理由を聞くことで、彼女の人生に深く踏み込む事が、なんだか恐かった。
 深く考えるのを止めて、ただ単純に快楽を求める事にした。ミリムの肩を軽く押して、後ろに仰け反らせる。そして、入り口から僅かに入った箇所を攻め立てる。
「うっっ……ひぃっ」
 所謂Gスポットを的確に刺激されて、彼女はそれまでにない快楽に顔を歪ませた。
「ううぅぅぅん……はあぁぁ……感じる…これ…いい……あひぃ…」
 蓬髪の下で、恍惚の表情に満たされたミリムは、淫らに喘ぐ。
「あぁぁぁ……んぅっ……だめェ……はげしすぎるぅぅ……そんなっ……あひぃぃぃ!」
 ピストン運動を加速させて行く。
「イク……イっちゃうぅぅぅ!! あひぃぃぃぃぃぃぃ!!」
 最後に、子宮に届く深い一撃が打ち込み、絶頂に駆け昇らせた。その時、強烈な収縮が襲い、思う存分に、白濁した液を注ぎ込んでしまった。
 翌朝、目を覚ますと、ミリムの姿はなかった。夢だと思いたかったが、濡れたシーツの乱れがそれを許さない。
 そして、日を跨がず、セリアから逃げ出した。


 アウエルシュテット州シロンスク。
 北サイアの中心地ホーランドの南には、美しい断崖の海岸線が続く。この海岸線が深く切り込み、細波一つない静かな小さな入り江が、『シロンスク』である。『アウエルシュテット州』の北端にあり、前面を海、背後を山、南北を断崖が道を遮る、孤立した小さな漁村である。
 この小さな集落の中に、不似合いな立派な尖塔を持った教会がある。名をゴーストドラゴン(幽竜)教会という。
 かつて神威帝に敗れたカリハバール皇帝の雷竜の亡骸が流れ着き、これを鎮魂するために建てられた。それ以来、ドネール湾沿岸の聖地の一つとして、多くの人々が訪れている。
 このシロンスクの背後の山を奥へと進んでいくと、小さな温泉街がある。傷の治療によく効くと言われ、治療のために訪れる人が多い。小川を挟んで数軒のホテルがあり、その中で、一番高級なのが、急な斜面に建てられた木造五階建ての『ホテル・グロス』である。


 肩にタオルをかけて、磨き上げられた手摺や段が美しい光沢を放つ大階段を登り、右に曲がって、同様に磨き込まれた廊下を、一番奥へと進む。
 髪は、しっとりと濡れて、体からほんわりと湯気が立っている。この温泉宿名物の大洞窟風呂で、昼風呂を楽しんできた帰りである。
 つるつるになった頬を程好く火照らせて、上機嫌で自分の部屋の扉を開くと、華美を避けたすっきりと質素な造りの居間へと入った。
 部屋の造りは、居間を挟んで寝室が二つある。通常一家族が借りる部屋だが、泊まり客が多い時は、相部屋として使われている。
「お湯はどうだった?」
 気取らない声で訊いてきたのが、相部屋の相手である。窓辺の椅子に座り、本から顔を上げて、愛想のよい笑顔を向けている。
 内心で、「まだ帰らないのか」と呟きながら、精一杯の社交性を働かせて答える。
「どうって、いつも通りだ」
 テーブルの上には、すでに二人分の食事が用意されていた。
「相変わらず、芸のない返事ね」
 人の良さそうな顔で、「一緒にどうぞ」と手招きしている。
 改めて、相部屋の相棒を見て、溜め息を一つ落とした。どうも苦手である。
 人と接する事が恐くなり、一人雲隠れして、セリアから遥か遠いこの地へ流れ着いた。
 ホーランドから船でシロンスクの入り江に到着すると、鏡のような水面に教会の尖塔が、まるで島のように浮かび、その風景に魅入られてしまう。
 そして、宿泊場所を求めて、この温泉宿に辿り着き、そのまま居着いてしまった。
 最大のお気に入りは、大洞窟温泉である。
 全長50mの鍾乳洞のような岩のトンネルがあり、湯気で曇る中を、奥まで進むと、180度のパノラマが広がる展望風呂に辿り着く。
 そこで腰まで湯に浸かりながら、シロンスクの入り江を見下して、口笛を吹く。それを潮風が吹き消してくれる。
――俺の判断一つで、他人の人生を変える事など造作もないこと……。
 これは、あれほど憎悪したソロモンそのものである。自分が何時の間にか、倒すべき怪物そのものになっている事を自覚、そして、恐怖した。
 不意に、木刀抱き締めて眠り、剣豪と呼ばれる事を夢見ていた少年の時代が、鮮やかに蘇ってくる。アスガルドを一人で旅立って幾千の夜を過ごしてきたことだろう。
――ここで、何時までもこうしていれば、もう誰一人傷つけることはない……。
 そんな事を湯で逆上せる頭で考えていた。
 そんな時に、相部屋を頼まれた。やってきたのがこいつだった。
 いきなり馴れ馴れしく話し出すと、自分の事を絵師だと言った。シロンスクを描きに来たとも言った。
 陽光のように明るい金髪に翠の瞳をした美形である。身長は少し低いぐらいだろうが、線は細い。よく日に焼けた快活そうな肌の色をしていて、少年のような爽やかな笑顔をする。
 着ているものは粗末な生地だったが、色の取り合わせなどにセンスを感じさせた。
 家族用の部屋を独占するのも悪いと思ったし、他に部屋も空いていないということだし、それに第一印象が良かったので、一緒に居ても悪い気分にはならないだろうと思い、相部屋を同意した。
 しかし、夜になってガウン姿を見て、それは間違いである事が分かった。
 視線を釘付けにする、魅惑的な膨らみが胸にあるのだ。
「女だったのか?」
「気にするな、慣れている」
「……そうじゃなくて、部屋変われよ」
「今更面倒だ」
「……」
 あまりにもあっさりとしたその口調に、すっかり彼女のペースに巻き込まれてしまった。
――何者なのだ?
 こちらの戸惑いをよそに、彼女は自由気ままに振る舞っている。
 男だと思わせていた方が、安全だと語った。旅の出会いは大切にしたいとも語った。確かに男っぽい性格で、仕草などには全く色気を感じさせない。しかし、肉体は頗る挑発的である。
 考えれば考えるほど怪しい奴である。究め付けが名前である。自分で『オーギュスティーヌ・ディン』と名乗った。怪しさの極みという感じである。

 シロンスクは雨期に入っている。窓の外は絶えず曇り、断続的に小雨が降っている。
 目の前に座る男装の美女は、降るのか降らないのか、はっきりしない天気に、文句を言いながら、視線を窓の外へと向けた。
「あ、今日も走っている」
 彼女の呟きに視線を外へ向けた。
「あれよ、あれ」
 と言って、窓の下の川原を指差した。そこには霧雨の中、ダッシュを繰り返す少女の姿があった。
「知り合いかい?」
「君は観察力ないなぁ。毎日走っているじゃない」
「そう? ……おっ、少年だ」
 その少女の横で、ちょっかいを出している少年に目を留める。この温泉宿の次男坊で、この部屋の接客担当でもある。
「あいつは凄いよ。何にも考えず生きている」
「それ誉めているの?」
 くすくすと笑う。
「勿論だ。尊敬すらしている」
 ゆるぎない声で、きっぱりと断言する。
「あっ!」
 突然、男装の謎の美女が叫んだ。
「何だよ、いきなり」
「これ忘れていた!」
「何?」
 円筒形の筒を手渡される。ちなみに、すでに開封済みである。
「中身は『破門状』みたい」
「……って、勝手に開けたのかよ。……って、嘘ぉ!!」
 慌てて紙を取り出す。そこには紛れもなく、北陵流からの破門が記されている。ソロモンの死後、北陵流は勢いを取り戻しつつある。その一環だろうが、あまりにも薄情に思えた。
「俺が何したって言う……いや、したけどさぁ……」
 確かに、南陵流それも宗家である極聖十字流代表として天覧剣術大会に出場している。
「でも、破門するほどの事な……事だけどさぁ……」
 知らぬうちに涙が出ていた。
「そうよね。いつまでも、北陵流を名乗るのも変よね」
 顎に人差し指を当てて、屈託なく言う。それから、謎の男装の美女は、頭を、よしよしと撫でてくれた。
「まぁ飲め。朝までつきやってあげる」
 翌朝、ほぼ日課になっている、朝の散歩に出かける。昨夜飲み過ぎたせいで、少し頭が重い。何度も濡れた地面に足を滑らせながら、丘の上にある小さな祠に続く、遊歩道を登って行く。
 途中、道の脇の林から、奇声と空を切る音が聞こえてきた。
――剣筋がバラバラだ。それに遅い……。
 林の中で、少女が素振りをしている。彼女が気付くと、その視線から逃げるように再び歩き始めた。
 祠の前に座り込む。眼下にはシロンスクの入り江が見えた。青い海と黒い民家の屋根、そして、白い教会の尖塔が綺麗だった。
 その時、背後で声がした。
「……あんた……」
 振り返ると、さっきの少女が立っていた。
「……あんたも傷の治療に来たの?」
 無言で、腕の傷を見せた。ガノム戦役で負った軽い傷である。
「あたしは腰。癖になっちゃったみたい」
 少女は横に立ち、眼下の風景を一緒に眺めた。
「こんな風景見て楽しい?」
「わりと」
「ふーん、私は見飽きた」
 そして、少女は帰って行った。
 その後も、まだ海を見ていた。
 セリアの湖とは明らかに違う。やはり海の潮風が好きだと思う。
――俺は一体何をやっているんだろう……。
 人との接触が苦しい。だが、同時に寂しさが人を求めてしまう。己の不甲斐ない心が情けない。
 草原の上に座り、潮風の香りを感じながら、そんな事を一人考えていた。
 しばらくして、微かな足音がした。
「いい景色ね」
 背後から声がする。一々振り返らなかった。
「横に座ってもいい?」
 そう言いながら、彼女は答えを待たずに、横に腰を下ろす。
「で?」
「で?」
「何のようだ?」
 ああ、と彼女は頷く。
「反乱らしいよ」
「はぁ?」
「下に見える教会で、『ヒュドラ党』の『ピエリック・ドゴール』という男が、新しい州侯を捕えようとしたらしい。でも、来たのは州侯の代理だったらしくて、今頃、修羅場じゃないかしら」
――代理……?
「ドゴールという男は、評判のいい男らしい。道理をわきまえて、仁道に篤い知者として知られているそうよ」
「そんな男が謀反か? よっぽど州侯は悪人らしいな」
「本人が言うのだから、そうかもね――」
 彼女の声は、これまでと違い冷たい。
「まさに疾風怒濤の時代という感じね。時代の潮流の前では、誰も強者ではありえない。知者と呼ばれる男ですら道を踏み外す」
「ああ……一寸先は闇だな」
 ほんの数年前は剣で身を立てようと思っていた。それが一瞬で全てを失い、また、あの強大だった敵を上回る権力を得た。今後どういう流転が持っているのだろうか。
 彼女は溜め息を落とす。
「タフな時代だからといって、目を伏せてばかりじゃ、何も見えなくなるわよ。君、あの走っている少女をどう思った?」
 一度、瞬いた。
「分からないでしょう。憧れの世界に少しでも近づきたいという気持ち?」
 鷹揚に何度も頷く。そういう輩はたくさん見てきた。
「彼女はエッダでは通用しない。エッダは天才になりたい者が行く所じゃない。天才が行く所だ」
「やっぱり君は何も分かっていない。あの少女は他人の力なんか望んではいなかった。それすらも見抜けない訳?」
 彼女は射るような視線を向けてくる。
「……」
 その視線に晒されて、力なく沈黙する。
「権力に翻弄されて苦しい。孤立して寂しい。だから壁を作る。するとさらに虚しさが襲う。それでクールなふりして、いつも敵を求める。傷付けば、誰かの慰めを求める。ああ、勿論、一般論よ」
「……」
「行って、見て来るといい。このタフな時代の中で、目を伏せている人々を」
 そう言って、彼女は去って行った。
「タフな時代か……」
 そう呟きながら、教会を見下ろす。

「なあ、まだ終わらないのかな?」
「そうだな」
 見回りを行う兵士二人が、話をしている。二人はともに十台半ばぐらいだろう。
「お前これ終わったらどうする?」
「上の学校でも行こうかな」
「俺は畑を買って、家族で一緒に暮らすんだ」
 二人の背後に回り込む。
「こんなガキを巻き込んで……」
 手刀で呆気なく気絶した。そして、木の陰で二人を縛ると、その鎧を着た。

「州侯には我らの声は届かなかった。重臣が握り潰したのだ。その者は、私の名声を妬んでいる。だから直接、州侯に私の声を伝えなくてはならない」
 ドゴールが壇上に立ち、演説を行う。

 ドゴールは『アウエルシュエット』に鳴り響いた傑物であった。セリアの太学を卒業した後、帝国の官吏になるのが一般的であるが、敢えて地元に戻った。当時アウエルシュエット州の財政は破綻していた。
 前領主『マイセン侯』は、文化芸術を奨励した。10万平方キロの広大な庭園を築き、そこに、多くの芸術家を集めた。アトリエ、劇場、美術館などを次々に建設、大規模な芸術祭を年4回ほど開催した。当然の如く、借金は雪だるま式に膨れ上がった。
 しかし、文化を独占する事を嫌い、一般公開して、民にも触れさせていたため、州全体的に文化水準は高くなり、金銀細工などの多くの特産品が生まれた。かつ、多くの人物を輩出する。
 ドゴールもその一人で、近隣の若者を集めてヒュドラ党を名乗って、マイセン侯の悪政を糾弾する運動を興す。
 ドゴールの声は正論であり、清廉な理想の世界だった。
 マイセン侯の理不尽は暴かれて、急速に求心力を失っていった。結果、州は混乱し、多額の借金の果てに、マイセン侯は破産してしまう。そして、責任を問われて改易を命じられた。
 ドゴールは州の立て直し策を、新たに州侯となったハルバルズ家に提出する。が、当主は行方不明で、代わりに、重臣の『ジークヴァ ルト・フォン・バクダッシュ』が応対した。
 彼はそれらを尽く退け、尚且つ、ヒュドラ党から誰一人召抱える事がなかった。
 これにドゴールは不満を抱いた。そして、この神威帝に所縁のある教会に、州侯が礼拝に訪れると予測して、これを待ち受けて、直談判しようとしていた。

「新しい州侯は、領地の運営よりも、軍に出仕し自らの出世にしか興味のない人物だという。しかし、貴族とはそういうものだ。政務とは厭いものだ」
 ドゴールは、彼の信奉者たちに語る。
「残念ながら、今この州は病んでいる。ならば政務に専念する者が必要だ。それも地元に精通した者こそが必要なのだ」
 眼が強い光を放っている。
「バクダッシュでは無理だ」
 さらに口調が熱くなる。
「領主とは本来民を助ける者だ。それが出来ないのであれば、全権を委任した者を置かれて、政務を代行させるべきだ。民は貴族のおもちゃではない。我々は命を賭して、我が理想を申し上げる」
 ドゴールがそう言うと、後ろの男が声をかけた。
「時間だ」
 その男は、無精髭に、赤く濁った目、そして、常に酒の臭気が漂っていた。容貌は変わっていたが、天覧試合の決勝で負けたアンドレス・ケイセンであった。
「こうなったら戦うのみ。ここは海と山に守られた難攻不落の土地。負けはしない。なぜなら正義は我らにあるのだから、民は我々を支持し、それは州侯も無視できないだろう。あのバクダッシュより私の言葉が正しい事を認めるのは時間の問題だ」
 ドゴールは力強く語った。迷いながらもヒュドラ党の面々は頷く。そして、アンドレスは唾を吐いた。
 その時、シロンスクの入り江を封鎖する州軍から、声が聞こえてきた。
「ピエリック・ドゴール。私だ。太学の同期として言う。こんな茶番はもう止めろ。もはや峠も我々が抑えた。逃げられやしない」
「黙れ!」
 ドゴールはバルコニーに出ると叫ぶ。
「我々は義によって立った。民の心情、地の条件、天の理を我々は知っている。ならば、この州の為に成すべき事も、最も熟知しているのは我々だ」
「知っているから、何かが出来る訳ではない。現にドゴール、君は逆賊となった」
「逆賊……馬鹿な。私は正義を示している。お前こそ州侯に取り入り、私を排除しようとしている逆臣ではないか」
「排除などしていない。君の建白書は見た。あれは現実の政策ではない。『税が高い、だから下げろ』『道がないだから造れ』など理想論を並べ、政治を批判しているだけだ。君は政治家ではない、評論家だ。故に私は君を採用しなかった。君は在野にあっての人だ」
「ほざくな。お前の学生時代の成績を俺は知っているのだぞ。俺の足元にも及ばなかったお前が、俺を見下すような事を言うな!」
「我々はもはや学生ではない」
「お前は俺が恐いのだ。俺の方がこの州を巧く導けるからな。だから俺を憎んでいるのだ」
「私はハルバルズ家を背負っている。人事を私物する事はない。それぞれの立場があるのだ。いつまでも甘ったるい事を言うな!」
 次第に、バクダッシュの声が荒くなって、感情的になっていく。
「甘いのはテメエだ。テメエなんぞに一州が動かせるかァ!」
「だったら、実績をもって示せ。お前は紙の上でしか何もしてないじゃないか!」
「俺はマイセン侯の失政を戒めた」
「だから口だけだと言っている。この現状を見ろ。州を荒廃させただけだろうが!」

「……子供の喧嘩だな」
 溜め息を吐いた。もう聞くに堪えられない。ゆっくりとドゴールの背後に近づく。
「危ない!」
「何?」
 ドゴールが振り返り、アンドレスが飛び込んできた。
「シン、貴様を殺す日をどれだけ待ったか。死ね!」
 アンドレスは剣を抜いて、襲い掛かってくる。それを軽くステップを踏んでかわす。
「荒れているな……」
 天覧試合の時のように、正確無比な剣捌きはない。
「お前のせいで俺の人生台無しだ。死んで詫びろ」
「情けないやつ」
「何をぉ!」
「それが剣聖といわれた男の台詞か」
 笑いが込み上げてくる。タフな時代の中で目を伏せている、と言った彼女の言葉を思い出している。
――どいつもこいつも、確かに何も見えていない……。
「お前を殺して、その名を取り戻す」
 アンドレスが剣を振り下ろす。それを冷静に見た。そして、その手首を掴んで、腰に乗せて投げ飛ばす。
「ぐがっぁ!」
 アンドレスは床に叩き付けられて、そのまま蹲った。
「お前はまだ多くのものを持っている。贅沢にそれらを捨てるな!」
 心からの叫びだった。
 そして、ドゴールの方を向く。
「消えろ。これ以上、ガキは要らん」
 そう吐き捨てて、教会を後にした。

 その足で、温泉街へと向かった。すでに陽は落ちている。川沿いの道に、オーギュスティーヌはいた。
「もう終わったの?」
 声は柔らかい。
「何とか」
 素直な笑顔で彼女に向き合える。心に凱歌のような明るい光が灯っている。
「あれ、何だっけ?」
「うん?」
「えーと、あ、『タフな時代の中で、目を伏せている』だ。うん、何となくだけど、実感できた……ような気がする」
「そう、適当言ったのに」
 なんだ、と笑い、それに彼女も応えた。
「目を開けて見れば、なんだなぁ、悲劇の主人公が多過ぎだ」
 時代は厳しい。
 自分が真実何を望んでいるかも分からない。だから、見識者と言われた男ですら道を踏み外す。
――ドゴールは、己の声を訊いて、これからどう生きていくのだろうか……?
 正義の為に決起したと言いながら、心底には同期への反発があった。自分を蔑むだろうか、新たなる正義を自己の中に見出すだろうか、だが、それはドゴール自身の問題だった。
「ふーん、何か変わった?」
「いや、何も変わっちゃいない。俺如きが時代の流れを変えることなど……」
 確かに何も変わっていない。だが、自分の中で何か一つ踏ん切りがついた。それだけだが、それまでと世界の色が違う。
「まあ、なんだな。俺はこれから、どうなるか分からんが、顔を上げて行こうと思う」
「そう、いいんじゃない」
 その時、雨が降り始めた。しかし、雲の切れ間には、まだ月が見える。銀色の光に、水滴がキラキラと輝いている。
「踊ろう」
 彼女を誘った。
「音楽は?」
「雨音を聞いて、それから、風の音も、それに、波の音も聞こえて来る」
「ほーお、そう言う事を言うようになったか」
 二人は一礼すると、手を合わせた。
「これは、タンゴ?」
「ワルツだよ」
 楽しそうに笑った。
 いつか何処かで、彼女と再会できる、と何の根拠もなく確信していた。その時は胸を張って堂々と名乗ろう。そして、彼女の本名を聞こうと思った。
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Date:2013/02/07
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Thema:18禁・官能小説
Janre:アダルト

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